霊感は一回霊現象を体験すると強くなると聞いた事がある。
でも生まれついて強いと言う人もいる。
俺は生まれながらにして脚に傷があるだけだ。
中学二年生、秋。
そんな俺に悲劇が起きた。
当時の俺は毎日を暇でもてあましていた。
友達とだって夜遅くまでは遊べるわけも無く、家に居ても何もする事なんて無い。
どちらかというと俺はアウトドア派だ。
そんな俺は刺激を求め毎晩深夜0時にこっそり家を抜け出して深夜徘徊をしていた。
だが、それも単なる散歩程度のものばかりで、最初くらいしか楽しみは無かった。
次第にそれにも飽き始めた俺は、いつもよりも長く徘徊をしていた。
突然、辺りの民家は途絶え、草原があたりを占めはじめた。
そんな中、一軒家がある。
近づくにつれてそれは次第に廃屋だと気づいた。
当時、俺は霊現象を信じるというよりも、起こったら楽しそうだ。
とう好奇心(?)が強く、こういう場所が大好きだった。
正面に立つと、扉と二階のガラスが全て割られている。
俺は扉から入ると瞬間にずり落ちた。
畳が腐っているみたいだった。臭いもどこか獣臭い。
すると、今迄にない不思議な感覚が起きた。
神経がピリピリする。頭痛が起き始める。脚の傷がムズムズする。
だんだんと俺は嫌な汗をかきはじめた。
秋の風が廃屋に入り込んでくる。俺の汗は急激に冷やされ寒気を覚える。
二階に上がる。階段は今にも崩れ落ちそうなまでに腐りかけていた。
低い天井。酷い埃の臭い。まさに廃屋だ。
室内にはテーブルが一個あるのが目立った。
夜中なのが幸いしたのか、俺は後にまたこの場所を尋ねたのだが二階にはカルタやメンコ等の子供のオモチャがビッシリとあった。
だが、当時の子供たちがそんな物で遊ぶわけも無く、ここに住んでいた人の子供だろうと思った。
二階を見終えて下りると、俺はもう帰ろうと思った。
扉を出ようとして、ふと後ろが気になって振り返った。
すると、俺は今まで気づいていなかった。
扉を入って目の前の奥には、仏壇があったのだ。
俺は瞬間、変になった。何故か無意識に仏壇によっていった。
そして俺の意識では、何故か仏壇を「破壊したほうが良い」という気持ちが高く、俺は仏壇を蹴り壊した。
気づいたら家の前にいた。
さっきまでの記憶はある。何故あんなことしたのか解らない。
そのまま俺は静かに家の中に入って眠りについた。
朝。目覚めると妙にダルイ。脚の傷が多くなっている。
「うわ、またできてる」と思い、瘡蓋をカリカリやってると急に変な音が響いた。
「ギシッ」とか「グギギギ」とか、そんな類の音だった。
俗に言うラップ現象と言う物だろうか。
別に変わった体験なら小学生の時に充分味わっていたのでそのまま無視して学校へ行った。
だが予期せぬことが起きた。
学校では頭痛が止まない。それに視線を感じる。
嫌な汗もかきまくる始末だ。
そして家に帰ればまたラップ現象が待ち構えている。
耐えに耐えかね、一週間が過ぎようとしていた。
そんな時、夢の中で見知らぬオジサンが出てきた。
俺は椅子に座っている。目の前にオジサンは腰掛けると「お前もうまくやられたもんだな」と言われた。
なんのこっちゃ?と思っていると、
「安心しろ、別にお前の代わりなんていくらでもおる」
と言って、オジサンは急に立ち上がった。
「あっちだってお前がそんなことしたことを不思議がってるんだ。
悪気がどうのこうのより、いきなりやられりゃぁ、そりゃ誰でも怒るに決まっとるさ」
そう言ったオジサンは少しずつ消えていった。
朝。妙に気が晴れていた。脚を見ると何故か傷が減っていた。
朝食を食べながら夢の事を思い出していた。
あのオジサンの顔。よくは見ていなかった。
けどあの眼鏡顔、何処かで見た事がある気がした。
「それじゃ、行って来るぞ」と、父が出て行こうとしたとき。そうだ、父の顔にそっくりじゃないか。
俺は学校から帰ってくると婆ちゃんに爺ちゃんの写真を見せてくれと頼んだ。
写真を見るとやはりそうだった。
あのオジサンは爺ちゃんだったんだ。
俺は婆ちゃんにこの一週間の事、そして夢のことを話した。
婆ちゃんの部屋は狭く、どこか暗い雰囲気だ。
既に眼の見えなくなった婆ちゃんはこの部屋で一日を過ごす。
だが、この部屋こそがあの四年生の夏の日、真実を知ったあの部屋だ。
箪笥には鎖に何かを巻きつけてある。
婆ちゃんは見えない眼を開いた。。
眼は真っ白だ。
「お爺さんも、そんな事が絶えなかったそうだよ」
「絶えなかったって?」
暗い部屋に二人の声が響く。
「無意識の状態になる事が多かったそうだ。
けどその状態になる時は大体何かいわくのあったりする場所や近寄りがたい場所の近くになるとなったそうだ。」
俺はよく意味がわからなかった。何を言っているんだ?
「共鳴という言葉を知ってるかい?」
「きょうめい?」
「似た物同士が近づき、一方が何かしらの振動を与えるともう一方もそれに反応して振動することだよ」
共鳴とこれが何か関係あるものなのかと俺は不思議に思い始めた。
「お前には脚に傷があるね」
婆ちゃんは立ち上がろうとしていた。
「あるよ、知ってるだろ」
俺は手を貸しながら婆ちゃんを立たせた。
立ち終えて婆ちゃんは「歳は取りたく無いもんだね・・・」と呟いた。
「お前の脚には怨念が憑いている。それも半端な濃さじゃない。
それほどまで我が家に対する恨みは深いようだね」
婆ちゃんは歩き始める。
「何故代々男子にしか憑かないのかは知らなんだが、その怨念はどうしようもないみたいでね、何代か前の人がお払いのような物にいったけど、追い返されちゃってね」
少しずつ、ヨタヨタと歩いていく。
「お前が言った所も、何かしらの怨念があったんじゃないかい?」
婆ちゃんは変な方向を向いて訊いた。
「いや、分かんないよ、そんなの」
「とにもかくにも、どうやらその怨念とお前に憑いていた怨念が共鳴したんじゃないかと思うんだよ。
昔、お爺さんも言ってたね」
婆ちゃんは、箪笥の方向に向かっていた。
嫌な記憶が蘇る。
あの夏の日の記憶がチラチラと頭を掠める。
「無意識になったのも、たぶんお前についてる怨念がお前を乗っ取ったんだと思うんだがね。
わざとお前の身体を利用して仏壇を破壊させて都合よくお前に怨念が降りかかった。」
婆ちゃんはため息をついて箪笥に触れる。
「けど、助かったのは幸いだったよ。お爺さんがお前を助けてくれたんだよ。」
俺は夢を思い出した。
爺ちゃんが言っていた言葉、やっぱり爺ちゃんもこんな事が度々あったのかと思った。
「何とか廃屋の方の怨念はあっちに持ってってくれたってこと?」
「そういうことになるかね。もう今はあまり辛くは無いだろう?」
そういえば家に勝手からラップ現象が起きないし、学校でも頭痛も変な視線も感じなかった。
「これで懲りたら、もう二度とそんな場所へは近づかない事だ。
あまりお爺さんに迷惑をかけないであげなさい」
婆ちゃんは振り向いて言った。
「うん、わかった」
「よし、ならもうそろそろご飯だから、下に行きなさい」
俺は婆ちゃんにありがとうと言ってから部屋を出て行った。
その日もまた、夢を見た。
俺はまた椅子に座っていて、どこかしら爺ちゃんが来るんじゃないかという予感がしていた。
そして俺の予想は当たった。
けど、爺ちゃんは傷だらけだった。
何かを喋ろうとしたが、声が出ない。
「ここじゃ声なんか出せないさ。何、お前の考えてることくらい大体分るさ。
傷は平気だ。少し梃子摺っただけだ」
俺はほっとして、深く椅子にもたれかかった。
「大体はお婆さんから聞かされただろうが、まぁそういうことだ。
馬鹿な真似は控えなさい」
そう言って、また少しずつ消えていった。
朝。軽く伸びをしてボーッとする。
さっきまでの夢を思い出していた。
俺は立ち上がり階段を降りようとした。
その時、ふと脚を見てみると驚くほど傷が薄くなっていた。