3年前、私は某会社の倉庫兼配送センターでバイトしていました。
そこは1Fがトラックの搬入口、2Fの半分は事務所で後は商品の梱包所、3F~5Fは倉庫になっています。
私は2Fの事務所で事務の仕事に就いていました。
蒸し暑い夏のある日、仕事が終わらず残業をしていた時の事です。
残っていたのは私とSさんだけでした。
ここではSさんと呼びますが、どうしても彼女の名前が思い出せません。
Sさんは当時35歳で、化粧もせず地味な感じの女性です。
「死んだ人の霊より生霊の方が怖いわよ」と急に言い出す事もあり、優しい方でしたが、何か不思議な感じのする人でした。
8:00を過ぎても中々仕事が片付きません。
普段は騒々しい所だったので、妙に事務所内がシーンと感じます。
彼女も黙々と仕事をこなしています。車の音、虫の鳴き声さえ聞こえません。
私は急に静けさが怖くなって、Sさんに話をしようと口を開いた瞬間、
ガラガラガラガラァァァ――――――――!
突然もの凄い音が響きわたりました。
驚いて立ち上がると、また同じ音が聞こえます。
どうも3Fで誰かが台車を勢い良く走らせている音の様です。
私は咄嗟に泥棒だと思いました。
「警察に電話して早く逃げましょう!」
私はそう叫びました。女2人では泥棒に太刀打ち出来ません。
Sさんを見ると、目を閉じて何事かを小さな声でブツブツと呟いています。
「何してるんですか!ここを出ましょうよ!」
彼女は押し殺したような有無を言わさない強い口調で、
「静かに、黙りなさい。あれは、人間じゃない」
なにか言い返そうとしましたが、何故か声が出ません。
そして一瞬静寂が訪れたかと思うと、今度は違う音が聞こえます。
ゴォンゴォンガタン
業務用の大きなエレベーターが動いています。
事務所からもそのエレベーターは見える位置にありました。
私が見たときには3Fに止まっており、▼のマークになりました。
全身が総毛立ち、逃げようとしても体が動きません。
何かがエレベーターに乗っている!ここに来る!
そしてガタァンと音がして2Fで止まり、ガ―ンと扉が開きました。
その瞬間、Sさんは一喝する様な声を出し、
金縛りみたいになっていた私は体が動き、咄嗟に耳を塞いでうずくまりました。
彼女は何か必死で叫んでいますが聞き取れません。物凄い恐怖でした。
私は『助けて!』と心で叫びながら震えている事しか出来ませんでした。
そんな中突然、髪の毛をグイッと引っ張られ、
「クックックッグッゥゥ……」
泣き声とも笑い声ともつかない男の声を耳元で聞き、失神してしまいました。
気がつくと彼女に「もう大丈夫だから帰ろう」と起こされ、私達は逃げるように家に帰りました。
不思議なのは、家に帰った時間が12:00を過ぎていた事です。
気を失っていた時間は5分ほどだったと彼女に聞いていたし、感覚的に9:00頃に起こった事だと思っていたからです。
3日後(会社を休んだ)彼女に会うと、右半身に真っ赤な湿疹がでていました。
「心配しないで~」と笑っていましたが、あれは何故でしょうか。
その時の事は私には恐ろしすぎて、その話題を口にする事なく会社を辞めました。
Sさんは御主人の転勤で九州に行かれたそうです。
エレベーターに何が乗っていたのかSさんにしか解りません。
あまり霊感の無い私でも、得体の知れないモノの気配は感じました。
私は音と声だけしか聞いていませんが、あの声は今でも耳に残っています。