私は今年受験です。
学校帰りに週三、県内で一番大きな予備校の個別指導を受講しています。
予備校の最寄り駅は家の最寄り駅から電車で三十分ほどかかり、少し遠いですが、地元の塾で他の受験生達と肩を並べて勉強するのはなんか嫌だったんです。
受講時間は夜の七時から八時。
それから電車に乗って帰るので、いつも家に着くのは夜遅く、九時をとうに過ぎています。
予備校は駅から歩いて十分くらいのところにあります。
行きは歩きですが、帰りは予備校のスクールバスで駅まで送ってもらいます。
その帰りのスクールバスでのことなんですが、どうやらその日は道が混み合い、なかなか前に進まないようでした。
私は気にせず、のんびりスマホをいじっていましたが、交差点に差しかかったところで運転手のオジサンが
「事故だ!こわっ!」
と大きな声をあげたので、私も驚いて窓の外を見ました。
外は真っ暗で街灯も少なく、景色がよく見えません。
ですが、信号機の近くの電柱の裏に、小さなスニーカーとズボンを履いた曲がった足が見えました。
バスはそこで右折し、それ以上のものは見ることが出来ませんでした。
私は最初なんだかよく分かりませんでしたが、やがてサイレンの音が聞こえてきて、心臓がばくばくし始めした。
……小さな子供だった。
はねられたのだろうか?
大丈夫だろうか?
私はその子のことが心配で、その日の夜はよく眠れませんでした。
そして数日後、予備校の日、私はその交差点のあたりを通りました。
信号機近くの電柱の付近、花束が沢山積まれていました。
それを見て、あの時の子がどうなったのか私は察し、また心臓がばくばくしました。
そして、とても悲しくなりました。
帰りのスクールバスでもその交差点を通りましたが、私はとてもその電柱に目を向けることが出来ませんでした。
そんな気持ちのまま私は電車に乗り、家に帰りました。
自宅に着くと、まだ父も母も仕事から帰っていないようで、リビングは明かりがなく真っ暗でした。
台所の方からうっすら明かりが漏れていたので、気になって行ってみると、毎日自宅を警備してくれている七つ年上の兄が、一人でカップ麺をすすっていました。
「○○ちゃん、お帰りー」
兄は私にそう言いました。
なんだか心細かった私は、少しほっとして、
「ただいまー」
と言いました。
「家の電気もつけないで何やってんの?」
私がそう聞くと兄はにやにやしていました。
いつも私をからかって遊ぶ、意地の悪い笑顔です。
「……それより○○ちゃん、面白いものをつけてるね」
「え?」
わけも分からず固まる私。
兄は私の右肩の斜め上に向かって手を伸ばし、撫でるように手の平を動かしました。
相変わらず顔はにやにやしています。
そしてぽつりと。
「そうですか。事故ですか」