ある日の夜、普段なら出不精の私が新しく買ったスマートフォンに付いていた万歩計機能を使いたいというのもあって、散歩に出かけることにしました。
散歩とは言っても、本当に家から5km圏内をダラダラと歩くだけ。
私の住んでいるところは住宅地だったため、基本的に道は舗装されていて明るいのですが、その日は住宅地から少し脇にそれた田んぼのある通りを散歩コースにすることにしました。
季節はお盆をすぎたころで、夜風も少しひんやりとしていましたし、すれ違う人も少なく、快適な散歩コースでした。
ある程度の距離を歩いたため、ここらへんでひき返そうと踵を返しました。
一旦スマートフォンで歩数を確認するためポケットに手を突っ込むと、一緒にポケットに入れていたはずの家のカギがありません。
やばい。
散歩中にスマートフォンを出し入れして歩数確認をしていたときに鍵が落ちたんだろう・・・
私はそう思い、今来た道をじっくり探すことにしました。
私は以前も一度鍵をなくして家から閉め出された経験があったので、その時はかなり焦って変な汗をかいていたのを覚えています。
田んぼ沿いの道はあまり電灯がなく、かなり暗い状況でしたが、私にはスマートフォンという文明の利器があります。
そう、スマホのライトで道を照らすのです。
がしかし、まだよく使い方がわかっていないので、ライトの付け方がわからず、結局内蔵されているカメラの照明機能を使って道を照らすことにしました。
探している途中は本当に焦っており、中腰で地面を必死ににらんで歩いていたのでもし誰かが私の姿を見たら恐怖に駆られていたことと思います。
結局、かなり戻ったところに鍵は落ちており、私は緊張から解放されて安堵の気持ちでいっぱいになりました。
無事家に帰り、すっかり忘れていた歩数を確認しようとスマートフォンの電源を付けました。
すると、画面はさっきのカメラのままになっており、よく見ると新しい動画データが追加されていました。
あれ、こんな動画撮ったっけ?
と不思議に思い、そのデータを見てみることに。
動画は薄暗くてよく見えなかったのですが、目を凝らすとさっきの田んぼの道だということがわかりました。
どうやら、鍵を探すためにカメラの照明をつけたとき、間違えて動画の撮影ボタンも押していたようでした。
「必死な自分テラワロスwww」とか思いながら何気なくそのまま動画を見ていたのですが、1~2分ぐらい経過したとき、
音声に乱れのような、ノイズ?のようなものが入りました。
それは風の音と言われればそうなのですが、私には男の低い声と妙な甲高い声が不協和音のように何かの歌の旋律を
うーーーーーうーーーーー
と歌っているように聞こえました。
その歌というのは、たとえるなら「ひなまつり」みたいな日本っぽい?旋律だったと思います。
私はこんな音なってたっけ?と首をかしげましたが、探しているときがあまりにも必死だったため聴こえていなかったのかな、と思いました。
しかし、その音はどんどん大きくなっていきます。
動画のただならぬ雰囲気に恐怖を感じましたが、好奇心が勝りそのまま見続けることに。
動画とは言っても、ほんとに薄暗い、スマホの照明の明かりだけの映像だったので、はいていたスニーカーが見えるくらいのものでしたが、その音がどんどん大きくなるにつれて、スニーカーの横にちらちらと何かが写るようになりました。
私は「?」と思い、よく目を凝らして見ると、画面の隅っこにどうやら犬の足のようなものが見えます。
その足は私のスニーカーと並走していて、かなり近い位置にいることがわかりました。
こんなに近くに犬がいたなんで、いくらなんでも気付かないはずがない。
そう思いつつも動画を見続けていると、だんだんと犬の歩くスピードが速まって来ており、足だけではなく胴体の一部も
画面の下の方から徐々に現われてきます。
頭の部分が見えたとき、私は目を疑いました。
頭があるはずの部分に、丸くてのっぺりとしたお面のような、不気味なものがあったのです。
しかもお面の顔と思われる場所には三点の突起物?が飛び出ているだけ。
それが発しているのかわかりませんが、さっきの変な音楽もかなりはっきりと流れています。
私は恐ろしくてたまらなくなり、すぐに動画を削除しました。
その日の夜はなかなか寝付けず、耳にこびりついた「ひなまつり」みたいな音楽を消すためにイヤホンしながら布団の中でスマホいじってました。
私はまだタッチパネルの使い方にも慣れていないのですが、ホームの画面に戻った時、間違えてカメラモードを押してしまったんです。
カメラの撮影モードになり、布団の真っ暗な画像が画面に映ります。
一瞬のことでしたが、その画像一面に、さっきののっぺりとしたお面が写っていたんです。
心臓止まりました。
今はその家から引っ越し、スマホのカメラモードは絶対押さないようにしてます。
デジカメの類も実家に送り返しました。
こっちの家にまでついてきてないといいのですが・・・
カメラ越しにしか見えないみたいなので、カメラを一切使わなければいないのと同じなのですが、なんだか恐ろしいです。
一刻も早く忘れたいです。