俺から俺への伝言

俺から俺への伝言 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

俺は関西の大学3回生。
一人でアパートの部屋で寝ている時、白い着物を着た、目の細い若い女に首を絞められている、

・・・らしい。

らしい、というのは、どうも夢の記憶が曖昧だからだ。
朝起きた時に咳き込んだり、一種の不快感があるのは覚えている。
でも、普通に起きている時は、今までその女が何回、夢に現れたか覚えていない。
それどころか、夜中にそんな夢を見ているという記憶すら忘れてる。

だが、実際夢を見ている時と起きた直後は、
詳細にその女を覚えているようだ。

4日前の朝、ふと机を見ると、一冊のノートに俺が書いたらしい文章を発見した。

「また糸目の女に首を絞められる夢を見た」
「白い服着た糸目の女。無表情。力強い」
「ほとんど毎晩出てくる。朝には忘れてる。やばい」
「人に話せば忘れない。大学で。相談しろ」

と、以上の事が殴り書きされていて、かなり切羽詰まってた感じ。
俺は気味悪いな、とは思ったが、信用せずに悪い夢見たんだろ、と結論付けて大学に。

3日前の朝、またノートに殴り書き。

「マジで出てくる。本当だった。ヤバイ」
「寝る度に何度も出てくる」
「信用してくれ、昼間の俺」

ここで初めて、俺は毎晩夜中に幽霊に殺されかけているのだ、と実感した。
その文のお陰で、微妙に思い出せた事は、夢とは思えないほど、リアルな圧し掛かった感触。

それを、大学の食堂で話題にしたのが、2日前の昼。

どうも毎晩、幽霊に首を絞められている、という話をツレにあっさり笑われて流されてしまい、そんなに困ってるならK先輩に相談しろ、高野山出身らしいから詳しいやろ、と言われた。
偶然近くの席で食事していたK先輩に、相談を持ちかけてみた。

しかし、やはり開口一番、

「アホ、幽霊なんぞおるわけないやろ。
お前が実際に変死でもしたら、ちっとは信用したるけど」

と言われ、俺は返す言葉もなく凹んだ。

実際、自分が死んでる姿を思い浮かべてしまった。
どうも高野山出身なだけで、先輩自身は完璧な無神論者らしく、幽霊なんぞ全然信じてない様子。

部屋に帰って少しばかり対策を練ったが、何も思いつかずにいると、K先輩がいきなり来た。
どうも俺のツレから住所を聞いたらしく、自分の部屋から仏教グッズをどっさり持って来てくれた。

「ほれ、高野の数珠5~6個、盛り塩、首に掛ける袈裟。あと、弘法大師のポスターな。
幽霊なんておらん。
だけど、安心して眠れないのは病気の元になる。
寝る前にこの般若心経のコピーを読め。
それでも幽霊見たら、病院連れてったる」

グッズの説明をした後、K先輩はさっさと帰った。
高野山出身というだけで、霊相談をされたり、怪談ネタの提供を求められるらしく、帰郷する度に近くの店で、この類のモノを買い求めてるらしい。

その日の夜は、安心して床についた。
四隅に盛り塩。
首に袈裟。
手足に数珠。
ポスターは・・・一応壁に貼ってみる。

そして昨日の朝。
俺は、すごくスッキリした気分で目が覚めた。
いつもの起床とは段違いに新鮮な気分だったので、

「ああ、俺は本当に毎晩嫌な夢を見ては無理に起きてたんだな」

と痛感した。

まぁ、幽霊がもう出ないと決まったわけではないが、興奮してその日の昼、ツレに話しまくった。
すると、俺の話は初耳だったという別のツレが、

「え?K先輩が部屋に来たんか?
なら、もう大丈夫ちゃう?」

と、あっさり言われた。
気になったので詳しく聞くと、実はK先輩は口は悪いが反面、世話好きで人望も厚いらしい。
だから高野山出身ネタの為に、オカルト幽霊話には必ず引っ張りだされるらしいが、そこに集まる自称幽霊が見える人達によれば、K先輩には特殊な波動やら精神性やらがあり、そこに先輩が居るだけで、タチの悪い霊程度なら消し飛ばしてしまうらしい。
ただし、先輩には自覚なしで。

居るだけで霊を追っ払ってくれるので、怪談をする時は大変重宝されているそうだ。
その先輩が部屋に来てくれたという事は、俺の話す「白い幽霊」も、どこかへ飛ばされたんと違うか?
という事。

俺は「へぇ~」と感嘆して部屋に帰った。
まぁ、先輩の話が本当でも、一週間は様子を見ないと。

で、今日の朝。
スッキリ気分でお目覚め。
ちなみに仏具は使いませんでした。
もう大丈夫な感じです。

2~3日したら先輩に仏具を返しに行くついでにお礼も言っとこうかと。

ちなみに、幽霊の方は消されたのか飛ばされたのか分かりません。
先輩本人は無自覚なので。

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