俺には高校時代からのAという親友がいた。
少しクセのある奴だったが兄弟のようにいつも二人でいて、お互いを理解し合っていた。
目指す道はそれぞれ違ったが、「どんなに年を取ってもいつまでも一緒でいような」と堅く誓い合っていた。
そしてAは東京の大学へと進学し、俺は地元の田舎大学へ行くことになった。
離れてからも俺達は互いに電話で連絡を取り合った。
俺もそこそこ大学生活を楽しんではいたが、Aの都会での生活は本当に楽しそうだった。
色んなサークルに入り、毎日合コン三昧で、とても勉強が手につかないような状態らしい。
そんなAの生活が俺は羨ましくて仕方なかった。
ある日、Aから「東京に来ないか?」と誘われた。
ちょうど夏休みだったし、以前から東京に興味を持っていた俺は、「是非行きたい!」と返事をした。
東京へ向かう新幹線の中でもずっと互いのことを話していたが、途中で携帯の電池が切れてしまった。
そこで初めて携帯の充電器を忘れたことに気付いた。
『・・・しまった!まだ待ち合わせ場所を聞いていない』
東京駅に着いてから公衆電話を探したが、いつも携帯から電話していたのでAの番号を憶えていなかった。
仕方ないので慣れない都会で携帯ショップを探し、やっとのことで充電することが出来た。
携帯を開くと、Aからの不在着信とメールが異常なくらい来ていた。
『どうしたんだ?何かあったか?』
『××前で待ってるぞ。早く来いよ!』
『俺の彼女も連れて来てやるよ!会いたがってたろ、お前』
『B(Aと同じ大学へ行った高校時代の友達)も来るってさ!みんなで盛り上がろうぜ!』
『おい、本当にどうしたんだ?一言くらい返事をくれ!』
メールを全て読み終わった俺はAが怒っていると思い、状況を訊くために先にBへ電話をした。
プルルル・・・ガチャ
「もしもし、Bだけど。何か用?」
何か用?
久しぶりに会うというのに随分素っ気ないではないか。
そのことをBに尋ねると
「会う?Aと三人で?俺はそんな話なんか聞いてないぞ」。
何かがおかしい・・・。
俺は、BにAのことについてもっと詳しく聞いてみた。
すると、意外な答えが返ってきた。
どうやらAは今まで俺に見栄を張っていたらしい。
Aは都会の生活に慣れることが出来ず、一人で居ることがほとんどだったそうだ。
講義もサボり気味で単位が取れず、最近は大学にさえ顔を出さなくなったらしい。
俺は急に心配になり、Bとの電話を切った後にすぐAに電話をした。
プルルル・・・
プルルル・・・
なかなか出ない。
プルルル・・・
プルルル・・・
ガチャ
やっと出た!
だが、妙に静かだ。
何の物音もしない。
俺はそのまま暫く待った。
やがて、獣の息遣いのような荒々しい音が聞こえてきた。
直後
「う゛ら゛ぎ り゛も゛の゛」。
静寂の中にハッキリと、背筋が凍るような声が響いた。
この世のあらゆる悲しみと憎しみの込められた声。
それは、Aの声とはとてもかけ離れたものだった。
その後すぐ電話は切れた。
三日後、Aは山で首を吊った亡骸として発見された。
そしてAのバッグからは、“もう一人分の縄”が見つかったそうだ。