夢で見た洋館

夢で見た洋館 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

俺にも信じられない話なので、この話を信じてくれとは言わん。
俺が小3くらいまで、熱出した時に必ず見る夢があった。
蔦が壁一面にビッシリと張り付いた洋館の前に、ガキの俺がいる。
周りはなぜか霧が出ている。
その洋館の玄関を開けるところで、夢はいつも終わる。

ここで話は、俺が大学生の時になる。
俺はテレビ制作会社で、ADというか雑用のバイトをやっていた。
田舎の大学に行っていたので、極めてローカルなTV番組を作る会社だった。

ある番組の中で、県内の不思議な建物を撮影するコーナーがあった。
それはミニコーナーなのだが、異常に狭い庭がある家とか、立派な鬼瓦がある家とか、
バカバカしいコーナー。

俺は雑用係で、そのコーナーの取材にはいつも同行していた。
その日もそのコーナーのロケだった。
会社に行くと、ディレクター(以下D)から言われた。

「今日いく家なんだけど、今までとちょっと勝手が違うから」

俺は「???」と思いながら、とりあえずロケに同行した。

ロケ車の中でDから話を聞くと、今日行く家は明治時代くらいに建てられた洋館らしい。
現在の持ち主はその子孫らしい。
その子孫自身も管理はおろそかにし、洋館はほとんど廃館に近い状態だという。
車の中は俺、D、カメラマン(以下C)、カメラアシスタント(以下CA)の4人。
いつもの面子だ。
そのロケにしては珍しく、結構遠い場所がロケ地だったので、その日は洋館に泊まるという。
それは事前に聞いていたので着替えはOK!

車は山道を走って行くが、俺は「??」だった。
だって今日いくのは明治時代の洋館でしょ。
俺の住んでいた場所は、田舎でもわりと都会の場所だった。
洋館があったら確実におかしい。
なのに…なのに…この山道はナニ?
こんな場所に明治時代人が住んでいたの?
しかもなんで洋館なんか建てたの?
車はグルグルグルグル、同じ様な景色が続く山道を走る。
かなり寒い。
そして民家など一件も無い?
というかここに住所はあるのか?
そんな場所。
決して閑静な田舎の別荘地なんかでは無いので、誤解しないように。

会社を出て実に3時間。
本日のロケ地に到着した。
突如その洋館は現れた。
デカイ。異様だ。
なんか怖さすら感じる。
車を降りると寒い。

とりあえず、撮影機材を降ろしてロケの準備。
外壁に蔦が絡まった立派に洋館…。

「ん…?」

なんか不思議な感覚だ。
デジャビュのような感覚。
Cは外観の撮影をしている。
俺もボーっと外観を見ている。

なんか不思議な感覚…
少し懐かしい感覚。
そして怖い感覚。

さすがの俺も気づき始めた。
この洋館って…
撮影の邪魔をしないように、そっと建物の脇へ廻る。

その時に合致した。
ガキの頃夢に出てきた洋館だ!
俺はいつもこの場所に立って、この洋館を眺めていた。

しかし田舎の制作会社とは、撮影中はけっこうな緊張感。
そんな与太話をスタッフにしたら怒られる。
とりあえず自分の胸にしまっておいた。
外観撮影は終了。

さて、与太話でもスタッフにしようと思った時、Dが俺に言う。

「俺らこの付近のインサート撮ってくるから、君は管理者に挨拶しといてくれる?
もう来て中で待ってくれているハズだから」

「そうなの?」

って思っていると、スタッフは俺を残して消えていった。
仕事とはいえ少し怖い。
でも仕事なので仕方ない。
とりあえずなんていうのかしらんが、ドアについているガチガチ叩くヤツで住人に呼びかける。
(明治の建物だから、インターホンがないのね)

しばらく待つ。
反応はない。
仕方ない。
ドアノブに手を掛ける。
鍵は掛かってなく、ドアは普通に開いた。
中は少し薄暗い。

勝手に入るのも失礼かと思い、大声をだしてみる。

「すみませ~ん。
本日お世話になる○○(制作会社名)のものですが、どなたかおられますか?」

しかし無反応。
外の光と目の慣れで、中の様子がうっすら見えてくる。

でかいホールのような場所だった。
少しボーゼンとしていると、ホール右のドアが開いた。

低い声で
「はい…」
と出てきたのは、50歳前後の男性だった。

少し違和感がある。
「なんだこの感覚?」
と思いながら。

俺「本日お世話になる○○のものです。
スタッフはまだ外の撮影をしていまして、とりあえず僕だけご挨拶に…」

男性「ああ…はい。どうぞ」

俺は中へ招き入れられた。
ホールの奥に通される。

なるほど。確かに立派な洋館だ。
手入れは行き届いているとは言わないが、外の廃館の感じよりは小奇麗だ。
食堂の様なところへ通される。
落ち着かない。

男「お茶入れてきますので…」

食堂から出て行く。
あの男どっかで見たことあるなぁー。
食堂の中を見回して見る。
女の人の絵がある。
とりあえずDに連絡しようと携帯を出す。

マジかよ…圏外。
待っていると、さっきの男登場。
俺に茶を出してくれる。
ハーブ茶みたいなヤツ。
俺これ嫌い。
でも不思議と飲める。
割とうまい。
なんでだろ?
俺、嫌いなものは絶対ムリな方なのに…
気まずいので男と話す。

俺「すみませんスタッフ遅くて」

男「いえいえ」

俺「立派な洋館ですね?」

男「私も詳しくは分からないんですがね…
この辺りは昔、外国人が暮らしている集落があったそうですよ」

土地に歴史あり。
明治のこの山奥に外人集落!?
金山でもあったのか?
それにしてもこの男…どっかで…
玄関口が騒がしい。
スタッフが来た。
少しホッとする。

「すみませ~~ん」

なんて声が聞える。
俺と男が同時に食堂を出て、スタッフの出迎え。
男とDは大人の挨拶をしている。

D「お世話になります。しかし立派な洋館だぁー」

なんて。

男「好きに撮影して下さい。
どの部屋も使ってないから、出入りは自由にして良い」

撮影(ってか洋館の探索)が開始される。
ホールの撮影が終わると、さっき入った食堂。
女の絵を撮影するC。
この女の絵もなんか気になる。
少し不気味。
もうさっきの男は消えていた(元いた部屋に)。

俺はCAにコソコソと耳打ちする。
俺「なんか不気味な洋館ですね」
CA「こんなもんじゃないかな?洋館って」

2階に上がる。
小部屋が数室ある。
Dが適当な部屋を開けていく。
ここは明らか掃除していない。
埃臭いってか埃まみれだ。

俺「こんな所撮るんですか?」
D「こういう所が面白いんだよ」

そういうもんか?
撮影中ADはあんまりする事がない。
Dが指示。
CAが三脚あげたりライト当てたり。
Cが撮影。こんな感じ。
俺は部屋の中を適当に見ていた。
ふと机に目をやる。
おや…日記帳がある。
珍しいこともあるもんだ。

俺が小学生の時、気まぐれで日記をつけようと、近所のボロい文具屋で買った日記帳と同じものだ。
日記は三日坊主だったけどね。
きっとマイナーな会社のモノだろう。
それ以来、どの文具屋でも見たことはない。
それが今ここにある。
偶然ってあるんだなって思った。
少し中を見たかったけど埃まみれ。
さすがに、撮影中にニヤニヤ人の日記見てたら怒られる。
やめとこう。

次の部屋へ移動。
ここは綺麗に片付いている。
俺らが泊まる部屋なんだろう。
洋館には不釣合いの布団が4組。
男よありがとう。
ここは用無し。
一同トイレの撮影へいく。
便所は妙にかっこ良かった。
いかにも洋館の便所って感じ。
(どんな感じだ)

さすがに男4人も入れないので、Cだけ入る。
ドアは開けっ放し、俺も便所の中を見ていた。

「!!??」

便所にかけてあった何気ないタオル。
あの模様…。
昔家になかったっけ…
まぁなんか不思議な感覚だった。
実際、自分がそんな立場にたったら意外と怖くない。
というより、霊的現象って感覚はまず無い。
こんな事もあるのな?って感じ。
撮影後スタッフには話してみよう。

撮影終了。
ミニコーナーのロケだから早かった。
それでも時間的には7時過ぎくらい。
泊まりだから別に無問題。
スタッフ全員で男の元で行く。

D「ありがとうございました。
いい画が沢山撮れました」
男「それは良かった…」
D「電話あったら貸してもらえますか?」
男「どうぞ」

ホールの隅に案内されている。
未だに電話は使えるのね。
さすがに携帯使えないから、不便だもんね。

Dは会社に、ロケは無事終わったと報告している。
俺は男に、夕飯はいつにするか聞かれた。
晩飯は用意してもらう手はずなのね。
俺の判断でいいだろう。
俺「機材の片付けあるので、それじゃ1時間後にでも」
男「わかりました。
ちなみにお風呂は使えませんので我慢下さい」
俺「はい」

機材の片付けをしながら段々分かってきた。
男が誰なのか…
機材を片付けて、用意してもらっていた部屋に入る。
ここから晩飯までは、くつろぎタイムだ。

スタッフに話す。
夢のこと。
日記張とタオルのこと。
以下、それぞれの反応。

D「俺も熱でたら、同じ夢見てたことあった。
でもお前のは妄想」
C「怖い話はヤメレ」
CA「ふ~ん。不思議だねぇ」

お前らのリアクションって、所詮そんなもんか!
それから、みんなゴロゴロ寝てた。
俺は付き合ったばかりの彼女のこと考えてた。
当時その彼女と毎日電話してた。
泊まりロケの話はしていたが、今夜も電話してくるだろな…。
まさか圏外とは思わずに…。

そんなこと考えていたらドアを叩く音。
男「夕食の準備ができました」
食堂に集合。
意外とちゃんとした料理がでてきた。
飯。秋刀魚。味噌汁。漬物。あと適当な副菜。
そしてなぜかざるそば。
普通にうまかった。
秋刀魚には大根おろしがついている。
大根の固まりが一個あって、すりおろし器がある。
「おろしが必要な人はご自由に!」スタイルだ。
また来たよ。
この大根擦るやつ。
小学校の時に、俺が母の日に、ママンにプレゼントしたモノと同じだった。

目の前で飯食っている男…。
不完全だが一致した。
俺のおじいちゃんにそっくりだ。
5歳の時に事故で亡くなった祖父。
うろ覚えだけどこんな顔していた。
そして後ろの女の絵。
これも祖父と同じ事故で、亡くなったばぁちゃんに似ていた。
ここまで来たらさすがに怖い。

飯は我慢して食った。
早く部屋に戻ってスタッフに話したかった…のに!!
他のスタッフは酒出されて呑んでるし!

チッ!

俺は元々酒ニガテ。
時が過ぎるのをひたすら待った。
小便したい。
でもこの家怖い。
1人で便所?ムリムリ。
そーか、あのハーブ茶も、おばぁちゃんに飲ませてもらった味に近かった。
だから飲めたのか…

部屋に戻る。
俺の中二病は発病。
俺「ここはなんか怖い。危険です。帰りましょう!」
D「もういい加減飽きた。さっさと寝れ」
俺「便所だけはどうかついて来て下さい。後生です」
D「分かったよ…」

小便は無事できた。
あとはこの洋館で寝るのか…やだなぁ。
寝れた。
なぜか。あんなに怖かったのに、スヤスヤ寝ていた。
布団はD・俺・C・CAの順番だったと思う。
とりあえず、俺は端では無かった。
別に夢も見て無かったと思う。

ふと目が覚めた…。
目の前に男の顔があった。
意外と叫んだりしないもんだな…。
出た言葉は、
「おぅっっ…」ってな感じ
覗き込む男。固まる俺。

その間約2秒…。
ちなみに男の手には、なぜかロウソク。
男「○○さんですね…」
俺「…はい」
男「お電話です…」
俺「…どーもすみません」
男に先導されて廊下を歩く。

廊下真っ暗。
明かりは男のロウソクのみ。
寝ぼけているのか?俺?
この時はあまり怖くなかった。
不思議だ…。

廊下を歩いていると前の男が、「ヒッ…ヒッ…」という声を出しているようだ。
その度に俺、ビクッビクッっとする。
この男笑ってね?
電話の前に到着。
男「どうぞ…」
俺「どうもありが…」
男がいない。

どっか近くの部屋消えた?
キョロキョロと辺りを見回す。
すぐ横にドアがあった。
ここに消えたのか…。
少し安心した。

しかし、音も無く消えないでよっ!
受話器を取る。
俺「…・もしもし」
受話器「ちょっと!全然携帯通じないじゃーん。
どういう事よ~~!?」

彼女だった。
俺「ごめん。圏外のところにロケきてんだ」
ここからは普通に話していたと思う。
なにせ寝ぼけている。
早く寝かせてくれ。
俺「明日4時ごろ帰るから、それから会おう」
彼女「分かった。連絡してきてね。待ってま~す」
ヤレヤレだ…。
部屋に戻る。

暗いがなんとか帰れた。
さて寝よう…と思った時。
「あれ…なんで…??」

不思議…だった。
どう考えても不思議だった。
「何で彼女、この番号を?」

ロケに行くとは言った。
結構遠い場所らしいとも言った。
しかし…正確な場所は俺でも知らなかった。

なんでだ…?

寝よう…。
考えても分からない。
意外と早く眠りに落ちた。
翌朝7時起床。
荷物を担いで食堂へ。
朝飯も用意してくれているとの事。
スタッフ一同ゾロゾロと食堂へ入っていく。
昨日のことは夢だったのか?
寝ぼけていたのか?
男に確認しなければ!!

しかし食堂に入った瞬間、このロケで最高にド肝を抜かる光景を目にした。

「おーーはようござーーいまーーーす!」

食堂に響く威勢のいい声。
目を丸くするスタッフ一同。
男が蕎麦を打っていたっ!!

男「みなさん良く眠れましたか?
いや~私、蕎麦打つのが趣味でね!
皆さんに美味しいお蕎麦ご馳走しますんで…
ささ、早くテーブルへ」

一同ポカ~~ン。

男が蕎麦を打つのを、黙って見るスタッフ一同。
昨日とはうって変わって、ものすごく威勢のいい男…。

なんだこの豹変ぶりは!!??
同一人物ですか??
俺は確認した。

俺「…昨日の夜はわざわざ有難うございました」
男「いやーー気にせんで下さい!全然大丈夫ですよ!」
どうやら同一人物ではあるようだ。

そして、昨日あった事も夢ではなかったようだ…。

CA「昨日なにかあったの・・?」
俺「いや…僕に夜電話が掛かってきて…
取り次いでもらったんで」
CA「ふ~ん。そうなんだ」
男「お待たせしやしたっ!!!」

前に置かれる蕎麦。
確かにうまそうだ。
その蕎麦を一口食った瞬間分かった!
昨日の蕎麦も男の手打ちだったのか…。
俺たちは男に礼を言って洋館を出た。
なんか疲れたロケだった。

窓の外を見る。
緑の木々が妙に美しかった。
俺は、なんで彼女が電話番号を知っていたのか?
ボーっと窓の外を見ながら考えていた。

そして…あれ…その前に…
不思議なことはもう一つあった。

なんであの男…
俺の名前知ってたの?

挨拶はしたけど、自己紹介はしてないよね?
俺バイトだし当然名刺もないし…
名前言っても仕方ないから名乗ってない…。

無事会社に到着。
早速彼女にメール。
『仕事終わったら○○に行くから待ってて』
彼女メール『了解!』
会社を飛び出し待ち合わせのサテンへ。
早く確かめたい!
なんで昨日番号が分かったのか!!??

俺が喫茶店に着くと、彼女は既に到着していた。
軽く昨日のロケの話…
んで、核心へ。

俺「ところで昨日さぁー、なんで俺のロケ先の番号分かったの?」

彼女「え…電話なんかしてないよ。私」

本当にあった、学生時代の不思議な体験でした。
信じられないかもしれないけど、実話です。
その会社は潰れたと風の噂で聞いたから、Dと連絡は取れない。

卒業してDの携帯も消したし。
しかし、あの時なんでもっと追及しなかったんだろ。

不思議体験は、後にも先にもこの一回だけです。

★この話の怖さはどうでした?
  • 全然怖くない
  • まぁまぁ怖い
  • 怖い
  • 超絶怖い!
  • 怖くないが面白い