逢魔が時
幼馴染の彼女は自称、霊感少女。
私は、彼女と一緒に中学校から下校している。
もうすぐ逢魔が時。
夕日が絵の具を溶かしたように赤く、
それがゆっくりと山の向こうへと沈んでゆく。
彼女は、自分だけに見える霊の話をしている。
やたらと『いかに自分に霊感があるか』を言いたてる。
あそこの窓に白い女の顔が映っているとか、
あの友達にはおばあさんの守護霊がついているから成績がいいんだとか…。
もちろん、そんなものは私には見えはしない。
「でも、みんなあたしのことウソツキだって言うんだよね」
彼女はそう言って「あーあ。損な体質~」などと、ため息をつく。
さっきからずっと、彼女の背中には青ざめた顔の赤ん坊が抱きついて笑っている。
そして、左足には黒い蛇のような影がするすると絡みついてきているのだが、「見える」筈の彼女は、まったく気づかない。
逢魔が時、あたりはだんだん薄暗くなってきた。
彼女に取り憑く不気味な姿のあやかしたちは、ざわざわと少しずつその数を増やしてゆく。
相変わらず、さまざまな霊体験を話し続ける彼女。
「…でもさ、見えない人にはそういうの、全然わからないんだよね~」
と、お決まりの台詞を言ったところで、各自の家の分岐点に。
いつも別れの言葉と共に、それぞれの家へと帰るのだ。
「バイバイ」
と、手を振る彼女の影。
いろいろな異形のモノたちにびっしりと覆われているその輪郭は、
すでにもう人間のものではなくなっている…。