父方の爺ちゃん家の庭に、党首以外近づいてはならないっていうお堂みたいなのがあったんだけど、
爺ちゃんが亡くなった後、伯父(次男)が遺産相続の件でゴネまくった挙句、
思い通りにいかなかった腹癒せに、お堂の中の御本尊?をどっかにやっちゃったらしいんだわ。
基本的にお堂の中は党首といえども、年に一回元日以外には覗いたらダメとのことで、
すぐには発覚しなかったらしいんだけど、気味の悪い海の夢を連日見てた矢先、
次男一家が突然一家心中したんでピンと来たらしい。
次男は浪人だったけど別にグレたりとかしてた訳じゃなく、金銭的にも困ってそうでは無かったんだよね。
ところが、全員が首を釣って自殺。普通一家心中って、纏めて死ねるような方法選ぶよな?
なのに全員が個別に首を釣って自殺したんだと。
加えて伯父の右手は、壊死したみたいに真っ黒になってたらしい。
で、慌ててお堂を調べてみたら、中が空っぽになってて『オコボッサン』が無くなってる。
一族全員緊急で集められて、そこで初めて『オコボッサン』っていう名前と、
それが一族の守り神みたいな存在である事、ただし蔑ろにすると凄まじい祟りがあって、
何代か前には一族が全滅する寸前までいったらしい事なんかを話された。
正直、その段階では半信半疑どころか、従兄弟従姉妹の大半が、
伯父(長男)もボケたかなっていう感じだったんだけど、
うちの親父(三男)を含めて大人連中全員が真剣に嘆いたり、
祟りを防ぐために家から離脱すべきだとか話してるの見て、初めて怖くなってきた。
で、その日はかなり遅くまで話し合いが持たれた挙句、
伯母(長男の奥さん)と俺の母は離婚して旧姓に改め、子供たちも全員姓を変えることに決まった。
それ以外に、伯父(長男)と親父はそのまま屋敷に留まり、『オコボッサン』を探し続ける事。
他の親族は全員、本家に近寄ってはいけない事なんかも決まった。
ちなみに、うちの親父は一流に入ると思われる会社の管理職だったんだぜ?
で、それから一月もしないうちに親父から連絡があって、
伯父が屋敷の近くの崖から飛び降りて死んだっていう話を聞いた。
『次は自分の番だ』って、あの豪胆だった親父が震え声で言ってた。
その時に、『もし海の夢を見たら、学校なんか直ぐにやめて寺に駆け込め』とも言われた。
その電話があって更に一月後。東日本大震災で、屋敷ごと流されたらしい。死体は未だにあがってない。
幸い俺はそのあと海の夢なんか見なかったし、伯父(長男)の息子達も元気にしてる。
だから、祟りは終わったのかもと思う反面、この理不尽な話の理由を知りたいとは今でも思ってる。