とある村の話である。
その村では「ヒョイ」と言う言葉を口に出してはいけない。
何故か?爺さん曰く、ヒョイと口にすると「ヒョイ」が来てしまうからだと言う。
好奇心旺盛なA君は、この伝説に興味津々。
爺さんにねだって、禁断のヒョイの詳細について語ってもらうことに。
可愛い孫のお願いを爺さんは無下に断れず、「昔の話だから良いか」と軽い気持ちで語り始めた。
その昔、村でおかしな奇病が流行った。
村の若者が「ひょーいひょーい」と叫びながら、滑稽に往来を駆け巡るのである。
それを見た子供達が馬鹿にして真似をすると、翌日に熱を出し、3日3晩寝込んだ後、若者とまったく同じ症状となり
「ひょーい」と言いながら村中を飛び回り悪さをするのである。
「ヒョイ」とは本来「憑依」の事であり、下手に口にすると悪いものに憑かれ、さながら気狂いのようになってしまうのだ。
爺さんは
「だから気安く「ヒョイ」を口にしてはいけないのだ」
と言い、静かにうつむいた。
とても信じられないA君は
A君「遠い昔の言い伝えだろう?今はそんなものいるわけがない」
A君がそう言うと、うつむいていた爺さんがゆっくりと顔をあげた。
みるみる爺さんの表情が変わり
「今もおるぞい」
と一声あげると
「ヒョーイ!ヒョイ!」
と叫びながら人外の者の動きで林の中へと消えていってしまった。