うちの会社のビルは廊下ではなくフロアーごとに非常階段の扉があります。
とても重い鉄の扉なので手を離すとすぐに扉が閉まります。
普段は男性社員がその階段の踊り場でタバコを吸ったりしていました。
ある日、定時過ぎて自分の仕事が終ったので帰る仕度をしていると経理部長に急に必要になったから明日の朝使う監査の為の書類を用意してくれと言われ仕方なく残業。
20時をまわる頃には殆どの社員が帰り、部長も用事があるからと帰ってしまいました。
(後で聞いたら数人の社員とキャバクラ行ってたそうです。ムキー!)
用意する資料は膨大で、近くのビジネスホテルに泊まるのを覚悟でとりかかりました。
0時をまわると、なんでもっと早く言ってくれなかったのよ!とイライラして思うようにはかどりません。
気分転換に外の空気を吸おうと、非常階段の扉を開けて踊り場に出ました。
しばらく外を眺めていると電話が鳴った気がしたので部長かと思い扉をあけました。
電話はすぐ切れてしまいましたが、肌寒さもあったのでフロアに戻ろうとするといきなり手を引っ張られた感覚がしました。
驚いて手を振り払うようにすると鉄の扉がガチャン!と音を立てて閉まりました。
でもまだ手首を掴まれてる感覚がして扉のほうに左腕だけ残した状態になりました。
なんか怖いと思い振り返らず手を戻そうとしても出来ません。
意を決して手の先を見ると、なんと自分の指が扉に挟まり更に重い鉄の扉はしっかりと閉じていたのでした。
一瞬頭が真っ白になって動けなくなりましたが、挟まった指に感覚がないのがまるで他人事のようにも思えて「助けてあげないと」何故かそう独り言をいい薄く扉を開けて指を引き抜きました。
段々指先に感覚が戻り、痛みが激しくなってきます。
でも痛さよりも引きとめるように手首を掴まれた事の方が怖くてわたしは座り込み声をあげて泣きました。
結局怖くて泣きながらも、指が倍の太さに腫れてきても冷やしながら仕事を続け気付いたら皆が出社してくる時間でした。
皆に話すと、心配しながらも「手を挟むなんてドジだなあ!」と笑われました。
ホントに手を引っ張られたのに・・・。
ケガが治れば怖かった事等も忘れ、数ヶ月経った頃また深夜に及ぶ残業がありました。
その時は2人の男性社員と一緒だったので楽しく雑談をしながら作業をしていました。
するとAさんの携帯が鳴り、彼はタバコを持って非常扉を開けて出ていきました。
ふと、以前の恐怖を思い出します。
時間は午前1時をまわったところ。
扉が開いたら注意してあげようとお節介にも近くに歩いて行くとイキナリ扉が開いて緊張した面持ちのAさんが出てきました。
Aさんは早口に携帯が下に落ちたと言うと走ってフロアーを出ていきました。
うちは6FなのでBさんは「もう使いモンにならへんやろな」とのん気に笑ってました。
戻って来たAさんに大丈夫でした?と声をかけると言い訳に聞こえるかもしれないけど・・・と彼は話し始めました。
携帯はすぐ切れてしまったので、またかかって来るだろうと思い手すりによりかかりそのままタバコを吸っていた事。
吸い終わって火を消そうと扉近くの灰皿近付こうとした時手を引っ張られた事。
それに驚いて片方の手で持っていた携帯を下に落してしまった事・・・。
Bさんはわたしと同じ事いいよると笑ってましたがAさんがほんとに引っ張られたんだよ!とキレ気味に言うとごめんなあと謝りました。
気まずくなってそのまま仕事を続けているとBさんが「そんでお前誰から電話やったん?」と聞きました。
「非通知でしたよ」Aさんは憮然と答えました。
「出たらしばらく無言で切れたんです」
Bさんはそれ以上何も聞きませんでした。