私には、東京の有名な処刑場があった区に実家がある友達がいる。
何か歴史的な背景などもあるのか、彼女の家では色々とあっち方面の出来事が多いらしく、この話はそのうちのひとつだ。
ある晩、彼女が二階にある自分の部屋のベッドでうつぶせに寝転がっていると、突然金縛りになって体が動かなくなり、窓の外から奇妙な音が近付いてきた。
パカパッ、パカパッ、パカパッ、パカパッ……
それはたくさんの馬が走って来るヒヅメの音だった。
彼女はうつぶせのまま見ることはできなかったのに、なぜか、馬の背には甲冑を着た人々が乗っている!と直感したという。
その音は窓を突っ切って部屋の中へなだれ込み、彼女の頭上約1メートルぐらいの高さを走り抜け、反対側の壁の向こうへ消えていった。
と、同時に金縛りが解け、彼女は転がるように一階の居間へ。
幸い、居間には彼女の父親がいてテレビを見ていた。
「お、お父さん、今、私の部屋を、う、馬の群が…」
彼女は恐怖に震えながら、必死で一部始終を説明した。
すると、それを聞いた父はおもむろに口を開き、
「大丈夫、何も心配することはない」
「え?」
彼女の父は教職についており、常に冷静で厳格な人だ。
「私など、夜寝ていて体が動かなくなった時、これまで何回も落ち武者に首を締められたが、この通りピンピンしている。だから、安心しなさい」
ひっ、ひえぇぇええ~、落ち武者に首をぉおお~??!
それがなぜ安心してよい事になるのかはよくわからなかった、と彼女は語っていたが、落ち着き払って娘を諭す父親に、改めて尊敬の念を抱いたそうだ。