母から聞いた話。
俺の祖父は元ヤーさんで両手を合わせて五本の指しかなかったという。
「沢山の人間の指を詰めてきた」と誇らしげに語る祖父を母は内心嫌っていた。
しかし嫁いだ身として口に出しはしなかった。
ある日の晩。
まだ小さい俺と同じ布団で眠っていると、急に俺がギャーと叫んだ。
夜泣きとは違った泣き方に慌てた母は俺をあやそうとしたが、俺は狂ったように転がって
「xxさんxxさんxxさん」
と誰かの苗字を叫びながら壁に頭を打ち始めた。
止めさせようとしても暴れるわ手に噛みつくわでどうしようもなかったらしい。
後日、俺と母が暮らしていた部屋は元祖父の部屋で、押入れの奥に指詰め用の道具や短刀が保管してあることが分った。
そして「xxさん」というのは祖父の893ネームみたいなものだということも。
恐ろしくなった母は俺を連れて実家に帰り、なんやかんやで離婚の流れになったらしい。
「アンタ、私のことをママって呼ぶ前にxxさんって言ったんよ。
まだ何も喋れない赤ちゃんだったのに」
と言われて何も覚えていないながらゾッとした。