山奥のラブホテル

山奥のラブホテル 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

7年前、大学1年だった俺と当時付き合っていた彼女が経験した話。
それは8月頭の蒸し暑い日のことで、俺と彼女はキャンプをするために車で群馬に向かっていた。
目的地付近に到着した頃には日が落ちかけていて、テントを張る場所を探す時間も無く飯を炊く気力もなかったので、どこか宿を探そうということになった。

しかし山奥であり、なかなか都合良く宿を見つけられない。
しばらく車を走らせたところ、錆び付き崩れ落ちそうなラブホテルの看板を見つけた。
この先2キロと書かれたその看板があまりにも古いため、まだそのホテルがあるか疑問だったが蒸し暑く汗で体もべとついており、風呂にも入らず車で寝るのは俺も彼女もいやだったのでその看板の指示にそって走っていった。

それは人気がまったく無く、周りを木々に囲まれ荒れ放題の場所にぽつんと建っていた。
安っぽいネオンには電気が通っており、ジジジ・・・と点滅を繰り返し羽虫が飛び回っている。
普段なら絶対に泊まらないであろうそのホテルに、しかし他にどうすることもできない俺たちは泊まることを決意して入り口に入った。

カウンターには一枚の大きなすすけてセピア色になった室内を映した写真が飾ってあり、
その下には部屋番号とボタンがずらっとならんでいた。
予想はできたけれど、宿泊中のランプは一つも灯っていない。
俺は一番最後の部屋を選びボタンを押すと、カウンターの前にいった。
けれどカウンターの奥には人がいないようで、大声で「すいませ~ん」と叫ぶとすこしたって「お待たせしました」と老婆らしい人が来て鍵を差し出した。

俺と彼女は部屋に入ると疲れ切っていたので、ベッドに倒れこむと風呂に入るのも忘れてそのままうとうとし始めた。
30分くらいしただろうか、眠りに落ちかけていた俺に彼女が声をかけてきた。

「ねぇ、隣の部屋、誰かいない?」

そんなはずはない。
ここに来たときにはランプはついていなかったし部屋に入ったあとも誰かが来る音はしなかった。
俺はとにかく眠かったので適当にあしらおうと思って頭をあげた、その時だった。

「おっ・・・・ごぉッ・・・・・・」

という声が隣の部屋から聞こえた。
60代くらいの中年男性がむせているのか、泣いているのか、とにかくそういう気味の悪い声だった。
彼女はあまりの恐怖に声もでないようで俺にしがみついてきた。
俺も怖くてしかたなかったが、隣の様子を探るため壁に耳を近づけてみた。

10秒・・・20秒・・・いくら待っても先ほどの声も人の気配もしない。

段々と緊張が解けてきた俺たちは、眠気も覚めてしばらく呆然としていた。

すると突然隣の壁がドン!ドン!ドン!と叩かれた。
油断していた彼女は突然のことに大声をあげた。
静かだった隣の部屋からはたくさんの人の声がして、どたどたと慌ただしく騒いでいる。

俺は身の危険を感じ、彼女をつれて部屋をでると車まで走った。
恐怖と焦りでなかなかキーが見つからず手間取っているとホテルの入り口から大勢の男たちがこちらに走ってきた。
訳も分からず泣き叫ぶ彼女。
キーが見つからず焦る自分。
男達はみな中年で10人前後おり、俺たちの車を取り囲むとバンバンと叩きながら方言なのか聞き取れない言葉を大声でまくし立ててきた。
焦りながらもやっとのことでキーを見つけると、俺はすぐエンジンをかけ男達にかまわずフルアクセルで逃げた。
警察にいって親が出てくるのも嫌だったし、とにかくその土地から離れたい一心で徹夜で東京に帰った。
あれからあの場所には一度もいっていない。

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