これは、山陽の某洞窟で体験した話です。
長いですがお許しください。
いわゆる、秋のオートキャンプだった。
大学の寮内バカメンバーだった広島のヤツらと3人で、山陽にあるオートキャンプ場で、久しぶりに集まって一杯やろうか!という話になった。
テントやらコンロやらをワゴンに詰め込んで、車内で昔話で盛り上がってるうちに、山奥のすばらしいキャンプ場に着いた。
テントを張って、晩飯の仕込みをし、その間にも昔話で盛り上がってた。
そうこうしているうち準備も終わり、まだ時間があるんで、ちょっと周辺を観光しようか、という話になった。
ドライバーのヤツは、寝とくわと言ったので、二人で散策することにした。
キャンプ場からものの5分のところに、大きな洞窟が口をあけていた。
古びた看板を読むと、こんなことが書かれていた。
「ここは、源平合戦のおりに、平家一門が隠れ住んでいたという伝説がある洞窟です」と。
そして看板のそばには、ちいさなほこらがまつってあった。
へぇ~、こんな薄気味わるいとこに、よう隠れとったなぁ。
そうじゃの~。なんて会話してて、ふとそいつに話したくなった。
「オレのご先祖に、平家の落人がいるらしいで」
そいつは、ふ~ん、と流した。
本当のことなのになぁ。
そのときだ。
オレの頭の中に言葉がささやくようにひらめき、つい口をついて出てしまった。
「・・・おごれる平家は、久からずや。
おごれる源氏もまた、久からずや。
・・・・世は、なべて諸行無常なり・・・・」
低い声だった。
自分でもびっくりするぐらい。
でも、ヤツは聞いてなかったかのようだった。
じゃ、洞窟の奥に入る前に写真を撮るか、と、ほこらと看板の前に立ち、入れ替わるようにして2枚撮った。
写真を撮りながら奥に進むと、いっそう不気味さは増した。
洞内のランプが途切れたその先は、飲み込まれそうな暗黒だった。
さすがに、これは進めないと、オレ達は引き返し、テントに戻った。
楽しい宴だった。
ただ、ものすごい冷たい風に、みんな毛布にくるまってたが・・・。
そうこうしているうちに、眠くなり、テントに潜り込んで爆睡してしまった。
そして翌朝、気持ちのいい朝だった。
みな早く起きたので、きのう残っていたヤツに、洞窟に行こうと誘ったのだが、めんどくさいとぬかしたので、また昨日のヤツと行ってみた。
2度目なので、今度は怖くはなかった。
20分ほどでテントに戻ると、残ってたそいつがニヤニヤしていた。
「なんや?」
「おまえらのー、中でエッチなことしとらんかったか?w」
「おいおいホモじゃねーよ!」
「いや、おまえらのすぐ後ろに、女がくっついて歩いとったぞw」
「・・・・どんな女?」
「そーじゃのー、髪の長い美人じゃったw」
またこいつ、昔の悪いクセが出たなwと、オレ達は軽く流してやった。
「うんうん、いっぱいしてもらったよwwww」
「えーのぉw」
数日後、できあがった写真を見て、我が目をうたがった。
ほこらの前の、同じ場所で撮った2枚の写真だった。
最初に写ったオレのまわりは、ただの洞窟の岩肌だ。
でも、同じ場所に立った友人の写真は、なんとも言いがたいモノが写っていた。
友人の右ひざに、15センチくらいの男の顔。
右斜め前に、烏帽子のようなものをがぶった2メートルくらいの男の首が横たわっている。
そして、友人の背後には、4~5メートルくらいの、女官のような長い髪の、巨大な女の顔。
源平合戦絵巻に出てくるような、武士や女官にそっくりだった。
その他、いろんなものがぐちゃぐちゃに混ざって、白いもやと共に写っていた。
・・・・・・・これは心霊写真か?
冷静だった。
人間、本当に恐怖を感じると、感覚がマヒしてしまうことが、わかった。
すぐに電話した。
いっしょに洞窟に入った友人は、「そんなのいらん」と言って、怒ってしまった。
もう一人の残ってたヤツに電話したら、「ぜひくれ!」というので、そっちで処分してくれ!と、速達でネガごと写真を送ってしまった。
数週間して、そいつから電話があった。
ヤツはそれを会社に持って行き、大反響だったそうだ。
おいおい知らんぞ・・・・。
そして、あのあと気になっていた事を、思い切って聞いてみた。
「あのな、オレ達のあとに女がついて来たって言ってたな」
「うん、おったでw・・・・あ」
その後、彼はネガごと写真を紛失してしまった。
そのあとに、我々に起きたことは、書きたくない。
ただ、オレは数年後ひとりで、再びあの洞窟に行き、ほこらにお酒をそなえて「ごめんなさい!ごめんなさい!」と、謝ったおかげか、今のオレ達には、とりあえずは不幸は来ていない。
おそらく、オレは平家の血を、本当に引いているのだろう、
そう実感した、出来事でした。