これは私が小学生の頃、一人の転校生から聞いたお話です。
彼女はそれまで親の都合で何度も転校してきたそうですが、私達の学校に転校してきた数を合わせると5回目か6回目という事でした。
(正確に覚えていません…)
私達は
「大変なんだなあ」
と言いましたが、彼女は首を振りながら
「今度の転校は少し事情が違う」
と話し始めたんです。
その話によると、一つ前に住んでいた借家(一軒家)が実は近所でも有名な「お化け屋敷」だったそうなんです。
その家は引っ越したその日からなんとなく部屋中がカビくさくて
「ずいぶんと陰気だなあ」
という印象だっだそうです。
特に不思議に思ったのはトイレに通じる廊下の突き当たりになぜか古い足踏みミシンが放置されていた事でした。
その廊下は昼でも薄暗く夜トイレに行く時などは必ずそのミシンの前を通らなくてはいけないので彼女はぎりぎりまで我慢してから行くことにしていたそうです。
ある真夜中
寝ているとなぜか不意に目が覚めてしまいどうしてもトイレに行きたくなったそうです。
しかしトイレに行くにはあの不気味なミシンの前を通らなくてはいけないし出来る事なら朝まで我慢したい気分にもなりましたがそれはやっぱり限界のようでした。
彼女は恐る恐る二階の自分の部屋から出て、階段を降りトイレに通じる廊下に降りましたが思った通りそこは真っ暗で超不気味だったそうです。
そして、ふと何気なくミシンの方を見ると最初は良く分かりませんでしたがミシンの前のイスに誰かが腰かけているらしかったのです。
その人は後ろ向きでしたが長いヘアースタイルなどから女の人だという事がすぐに分かりました。
彼女はあれは「お母さんかな」とか「お姉ちゃんかな」とも思ったそうですがこんな真夜中に、しかもこんな暗闇の中でそういう事はどう考えても不自然でした。
そのままじっと見ていると突然その女の人が「ガタン」「ガタン」とミシンを足踏みし始めたそうなんです。
その両腕はなぜかぶらりと下に垂れ下がらせていて足だけをゆっくりと動かしているようでした。
その動きはだんだんと加速度的に速くなって行きました。
そして
「ダ・ダ・ダダダ・ダダダダダ・ダダダダダダ…」
と全速で踏みはじめたそうなんです。
そのあまりの異様さに彼女はその場から慌てて逃げ出しました。
必死に階段を駆け登り自分の部屋に飛び込んで布団の中で丸くなって震えたそうです。
あの不気味な女の人が階段を「ダダダダダ」と追いかけて来る足音を聞いた気もしたそうですが実際に気が付いたのは次の朝だったそうです。
(オネショはしていません…)
彼女は朝食の時それとなくお母さんやお姉ちゃんに昨夜の怪事を尋ねてみました。
しかし
「あんたが寝ぼけていたんだろう」
位にしか取りあってくれずその事を確かめるため改めて彼女はミシンの前に行ってみたそうです。
イスはきちんとミシンの下に入れられていましたがミシンの針の部分に赤い糸がめちゃくちゃに絡み付いていていつそうなったのか分からなかったそうです。
実はそれから後彼女や彼女の家族の身の上にも次々と不思議な現象が起こり続けお母さんが
「この家はお化け屋敷」
との近所の噂を聞きつけてくるに至ってとうとう引っ越してしまったという事でした。
これで全部です…
彼女は2、3ヶ月してまた別の学校へと転校してしまいました。
後から分かった事ですが同じ様な話が怖い本で見つかり友達の間では
「あの子、自分の体験の様に話しただけかも」
という事になってしまいました。
でも、私はそうは思えないんです。
あの話に出てきた借家はお金さえ出せば誰にでも借りられる物ですから、同じ家で同じ様な体験をした人がいっぱいいてもおかしくないんじゃないでしょうか。
それに彼女自身が転校してしまった今となっては確かめようがありませんし…