死神

死神 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

俺は霊を信じない。
信じないっつか、今までそう言った類の体験をしてないから、信じられないでもたった1度だけした不思議な体験を話そうと思う。

季節は4~5月、冬の布団が暑く感じる季節だったの覚えてる。

夜中にふと暑くて目が覚めた。
枕元の携帯で時間を確認したら確か2時40分頃。
1度起きるとなかなか寝つけなくてゴロゴロしてた。
うつ伏せになり眠れるかなぁ…って時に耳元で

「パンッ」

と音がした。俺は

「家が軋む音かな…」

と思いつつ眠りにつこうとした。
そしたらまた

「パンッ!」

と鳴った。

実感した。
あきらかに人が手をたたく音。
慌てて顔を音の鳴る方へ向ける。

そこには……人が立ってた。
人がベッドの真横で俺を見下ろしてた。

よくこう言った話しだとここで気絶したり、金縛りになったりするんだけど、実際遭遇すりゃわかる。
そんなグッタイミングで金縛りにもならないし、人間そんな簡単に気絶などしない。

俺は慌てて体を起こした。
さっきは寝ていてわからなかったが、目の前の人物は異常に「長かった」顔、腕、足と言った各パーツが異常に長い。
部屋が真っ暗で外見はハッキリわからなかったが、全体的に黒っぽかったのを覚えてる。

「………誰?」

自分でも情けない程ビビってた声。
その人物は何も答えない。

俺がもう1度

「……誰だよ」

って言った瞬間、その人物がスーーッと近付いてきた。

「殺される」

霊や化け物の方がよっぽどマシだ。
夜中に知らない人が立ってて、何も言わずに近付いてくる。
この状況は本当に洒落にならなかった。

そいつは俺の目の前まで来て

「○△※□」

と言った。
心臓バクバクで頭パニクってて何を言ったかわからない。

そいつがもう1度

「○△※□」

と言った。
(○△※□は伏せてあるが隣人の名字だ。)俺が

「○…○△※□なら、隣の家だけど」

と答えると、そいつは振り返りスーーッと消え……なかった。
その人物は普通に扉を開け、俺の部屋を出ていった。
そこで俺は夢じゃないんだ、霊じゃないんだ…と実感した。

俺は暫く固まった後、緊張からの開放と生きている安心からその場に座り込んだ。
段々と落ち着いてきて「泥棒だ!」と実感し、携帯を手に取り両親に電話をした。

俺の部屋は3階で両親は2階。
泥棒が両親の部屋の前を通るかも…と思うと無性に怖くて「何とか起こさないと!」と思った。

母親が寝ボケた声で

「もしもし…」

と出る。
俺は何をどう伝えたらいいかわからずただ

「起きて」

を連呼した。
母が父を起こし、電話で事情を説明した。
と言っても変な人がいた…くらいだが。
事情を説明している内に

「これだけ時間がたてば泥棒もどこかから出ていったのかな…」

と安心していた。
正直、両親の部屋に行く勇気がなかったんだ。

暫くして両親が階段を登ってくる音が聞こえた。
扉のノブがガチャッと音をたてる。
扉の向こうの両親が言った。

「○○、鍵開けてくれ」

この言葉は一生忘れないと思う。
なんか目の前がまっ白になっていった。
さっき泥棒はそこの扉から出ていったのに…

体を震わせて鍵を開ける。
両親が俺の顔を見るなり驚いていた。
余程酷い顔色をしてたんだと思う。
それから3人で家の隅々をまわった。
玄関、窓等、泥棒が入りそうな所は尽く無事だった。
両親はそれでも

「警察呼ぶか?」

と言ってくれたのが凄く嬉しかった。
こんな粋狂な話しを信じてくれてるんだな…と。
家族の優しさを感じた。

その日は両親の部屋で休み、何事もなく朝を迎えた。

母が洗濯物を干しながら隣人と挨拶をしてる。
父が新聞読みながら飯を食べてる。
そこにあるのはいつもの朝の光景。
俺は自分にあれは夢なのだと言い聞かせた。

夢であるはずがない。
でも夢だったのだと。

テレビを見ていると母が血相を変えて家に駆け込んできた。
父と俺が驚いて母を見ると、母はこう言った。

「○△※□…さんの所の旦那さん、亡くなったって」

…血の気がひいた。
景色がグニャっと歪んだ。
父と母が何か話してたが耳鳴りでよく聞こえない。
ただひたすら昨日の事を思い出していた。

「○△※□」

…昨日の人物は確かにそう言った。
○△※□さんの家を俺が教えたんだ…俺のせいだ……
母が

「詳しい事を聞いてくる」

と言い、隣へ走っていった。
暫くして母が帰ってきて

「何か夜中に急だったって。多分心臓か何か…」

と言った。
俺は母に

「こ、殺されたとかじゃないの?」

と聞いた。
母はキョトンとして

「殺される訳ないでしょ。昨日まで元気だったのに…怖いねぇ」

と答えた。
後に○△※□さんが亡くなったのは夜中の3時頃だった事がわかった。

俺は霊を信じない。
あれは死神だった、そんな事を言われても信じない。
昨日5年ぶりに現れた人物が、親の名前を問いかけてきた事も信じない。

目の前の親の死体も信じない。
信じたくない。

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