通っちゃいな

通っちゃいな 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

小学四年生の時、夜の7時から10時まで週に2回、隣町の学習塾に通っていた。
隣町に行く間には貨物列車の線路があって踏み切りを渡る必要があったのだけど、貨物車は、めったに通ることがなかった。
なので遮断機が下りることもなく、タイミングがいいのか、いつも踏み切りは素通りであった。

ある日のこと、塾を終えていつものように自転車で家路を急ぎ、踏み切りの所まで差し掛かった。
するとその時に限ってチンチンチンチンと鳴りだし自転車の前で遮断機が下りた。
しょうがないので待っていたのだけど、いっこうに貨物車が通る様子がない。

数分くらい経っただろうか。
線路を挟んで反対側の遮断機の向こうに、いつの間にか小さな女の子がポツンと立っていた。
街灯の明かりに浮かび上がる女の子は真っ赤なワンピースの肩からタスキ掛けに黄色いポシェットをしていて、幼稚園児くらいに見えた。
俯いているようで、おかっぱ髪が顔にかかり表情まではわからなかった。
こんな時間に幼稚園児の女の子が一人で?とは思ったがあまり気にも留めず、チンチンチンチンと鳴るばかりで、貨物車が通ることもない踏み切りの前で、ボーっと立ち往生したまま夜空を見上げて、さらに数分が過ぎた。

チンチンチンチン、チンチンチンチン・・・

空しく鳴り響くだけの音に、どうして貨物車が通らないんだろう?遮断機の故障じゃないのかな?と、苛立ち始めていた。
さらに奇妙なのは、いつもは自動車や人が行き交うはずの場所なのに、辺りに人の気配すらなくなり、この何分かの間、女の子以外まったく誰一人も見かけないことに気づいた。

妙な違和感がした。
まわりがやけに暗い。
夜空はどんよりと雲が拡がっていて月は出ていなかったが、夜だといっても住宅街である。
各家々の窓明かりがあるのだけど、いつもに比べその明かりがとても薄暗くなってる気がしたのだ。
それに対比するかのように、自分の真上と女の子の真上にある街灯だけが妙に明々と感じ、
暗闇の中で、自分たちだけを照らし出すスポットライトのように感じた。
まるで、その世界に自分と踏み切りの反対側の女の子だけしか居ないのではないかと思うほどだった。

さすがに、なんか変だなと思い始め、辺りをキョロキョロ見回したあと、目線を踏み切りに戻すと、踏み切りの反対側のスポットライトの下からあの女の子まで消えていた。
さては、あの子も待ちきれなくなって、どこか行ったのかなと、そのときは思った。

チンチンチンチン!チンチンチンチン!・・・

と鳴り響き続ける中、なんだか一人で、この世界に取り残されたような気分になっていた。
孤独感が襲ってきて背中がゾクゾクと寒気までしてきた。
貨物車も通りそうもないし、まずいかもしれないけど遮断機を超えて通っちゃおうかなと思った矢先。
自転車の横をふと見ると、あの女の子がそこに立っていて目が合った。
その瞳には白目がなく瞳全体がまるで血のように真っ赤だった。
そして女の子は

「通っちゃいな」

と言ってニターッと笑った。
思わず、後ずさりして、ウワーッ!と声をあげて叫んでしまった。
見てはいけないものを見てしまったような気がして、顔を横に反らして目を閉じた。

ほんの数秒も経たないで、そっーと目を開くと、目の前の踏み切りには遮断機は降りていなかった。
チンチンチンチンという音も消え、かわりに、いつもの住宅街の人の気配と車の騒音に戻っていた。
どこから現れたのかスーツ姿のおじさんや、おばさんたち数人が踏み切りを渡っていて、後ろの道路には自動車が行き交っていた。

あの女の子は?

まわりを見回しても、あの女の子はどこにもいなかった。

え?どうして?なんで?

いろんな疑問が頭の中を駆け巡り混乱しつつも、その場から離れたくて自転車を押した。
踏み切りを渡り自転車に飛び乗ると、逃げるようにして家路を急いだ。

翌日。
やはり気になって、学校の帰りに明るいうちにその踏み切りに寄ってみると、踏み切りの脇に、花や女の子向けの玩具が供えられていた。
翌週からは塾の行き帰りには遠回りをして、違う踏み切りを渡ることにしたのだった。

それからは踏み切りの遮断機が下りることに出くわすことも、あの女の子を見かけることも一度もなかった。

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