高校1年の夏。深夜。友達合わせて5人で、山の奥にあるダムに行った。
足は原付きが3台。
俺はカブに乗っていたのでケツには誰も乗っていなくて、他の4人の友達はそれぞれスクーター2台に2ケツしていた。
そのダムは普通に散策したので、さらに原付きに乗って山道を抜けたところにある大きな鉄橋に行った。
到着すると、みな一様に黙り込んだ。
なんだか雰囲気が異常に怖かった。
全員がなぜか緊張している。
この橋は明らかに雰囲気が違った。
怖いのだ。
さっきまでは本当に何でもなくて、ワイワイ楽しんでいたのに。
辺りは真っ暗闇で外灯すらない。
それでも俺は気のせいだと思い、怖い気持ちを抑えて、記念写真を撮ろうと準備にかかった。
みんななんだか落ち着かず、顔もこわばっている。
でもせっかく来たんだし、「早いとこ撮って出発しよう」と声をかけた。
その時ふいに音が聞こえてきた。
・・・キィ・・フュィィ・・・
遠いところから聞こえてきた。
道のずっと向こう、見えないぐらい遠いところから、山間を隔てて聞こえてきたように思った。
ギクリとはしたが、最初は別に気にしなかった。しかし暫くするとまた聞こえてくる。
キィ・・・キィィ・・
車のスリップ音のようだ。
それが遠くから聞こえてくる。
キィーー・・・キュィィィ・・・フィ・・
俺たちは顔を見合わせ、「走り屋でも走ってるのかね」と言い合った。
もたもたと写真を撮る準備をしていると、また音が聞こえてくる。
キィーーキィーーキュィィィ・・・キキキ・・・
なんだかおかしい・・。
聞こえる毎に音が長くなってきてる。
そして、それが徐々に近付いてきているのは明らかだった。
走り屋だったら、絡まれたりしたら嫌だなあ・・。
その時はまだそんなことを考えていた。
音はさらに間隔を延ばし、長い間鳴り続けるようになり、どんどん近付いてきている。
キュィィィ・・・キィーーキィーーキュィィィ・・・キキキーー・・・
「ちょっと離れたほうがよさそうだなあ」
友達の一人がてっきり走り屋だと思いそう言った時、全員が硬直した。
その音はいつの間にかすぐ足下から聞こえてきていた。
そう・・鉄橋の真下。
真っ暗闇の河からだ。
ありえない。
なんで橋の真下から聞こえてきてるんだ?
恐怖で顔が引きつった。
しかも、よくよく聞いていると、その音は車のスリップ音などではなかった。
何人もの男女の声が入り乱れた、うめきとも叫びともわからない、判別不能、理解不能な声が、
ウワンウワン、フュウウウウ、エエエエエーーー、キャアアアアーー・・・。
とにかく字で表現しづらいのだが、大勢の男女が声を絡ませ合って、奇妙な叫び声を上げていた。
その声は橋の真下からどんどん上がってくるような感じがした。
明らかに人間のものではない。
やばい!やばい!やばい!
みんな一斉に逃げ出し、原付きに乗ってエンジンをかけた。
2台のスクーターはすぐセルでエンジンがかかり、出発しようとしている。
俺はというと、カブのためキックでエンジンをかけなければならなかった。
が、エンジンがかからない。何度キックしてもかからない。
その間、あの声はどんどん迫ってきている。
ついには橋に上がってきて、俺の背後に迫ってきている感じがした。
もう恐怖で足がガクガク震え出し、キックもまともにできなくなってきた。
怖すぎて、鼻がツーンとして、手なんか間隔がなくなってきた。
こんな恐怖体験は生まれて初めてだった。
「待ってくれーーーーーーー!!!」
俺はスクーターの友達にあらん限りの声で叫んだ。
一台はすでに逃げ出した後だったが、もう一台の友達がその声に気づいて、びっくりしたように振り返って、止まってくれた。
ようやくエンジンがかかった!
俺はもう脱兎の如くアクセルをふかして逃げ出した。
それを振り返って見ていた友達と、その後ろに2ケツをしているもう一人の友達の顔もカブのライトに照らされて見えた。
それが見る見る恐怖に変わっていくのが分かった。
やべえ!俺の真後ろに何か見えているらしい!!怖えええ!!
バックミラーが視界に入ってきたが、相変わらず真っ暗闇だ。
でも振り返って確認などできるはずもなかった。
あらん限りアクセルを握りしめ、友達と合流し、鉄橋を猛烈なスピードで渡りきり、あとは振り返ることなどせずに、ただひたすら街の方に街の方に原付きを走らせた。
そうして俺たちは這々の態で逃げ帰ってきた。
あとで友達に聞くと、俺がカブのエンジンをかけている時、
その背後で、鉄橋の下からのそりと這い上がってくる、黒いモヤモヤしたものが見えていたらしい。
それはよく見えないけど、黒い霧だったと言ってた。
もう一人の話が強烈で、そいつは別のものが見えていたらしい。
いわく、古びた着物を来た異様に首の長い女が、凄まじく笑いながらスーッと近付いてきていたというのだ。
さらにその背後には、ゆらゆらとうごめく何体もの人影が見えたらしい。
これにはかなりゾッとさせられた。