高校生の頃、母の友人の猟師さん達と焼肉をした時の話。
その時の参加者は結構多く、猟師さんの友人やその友人、親戚など正確な人数は覚えていませんが、猟師さんの家の庭にあるプレハブ小屋でほとんどの大人たちはお酒を飲みながら各々焼肉を楽しんでいました。
ほとんどが中年(40代~)の中、ひとり20代の男性がお酒も飲まず静かに焼肉を食べていました。
彼はAさんと名乗りました。
あまり酔っぱらいの相手が得意でない母と私はAさんと話すことにしました。
話した感じ、彼はとても温厚で優しい人だと感じました。
色々話していくうちに彼の関係者も混じり、少しずつAさんは悩みを話し出しました。
何故か仕事が長続きしないこと、特に心当たりがないのにいつも肩が凝っていて首まで痛いこと等。
そんな話をしている時、はっきりは覚えていませんがパワーストーンの話になりました。
その時母は天眼石(目のような丸い模様のある石)のブレスレットをつけていて、「こんなのもあるよ」というふうにAさんに見せると、途端に彼の雰囲気が変わりました。
それまで静かで優しげな雰囲気だったのが、刺すような、誰も近寄らせないようなビリビリとした雰囲気に。
そんな変化に気付いたのか、近くにいた女性陣は用事をつけてサッと猟師さん宅の中に行ったりAさんから距離をとったりして避難しました。
酔っていた男性陣は
「取り憑かれたのかぁ??」
「やべーやべー!」
などと口々にAさんをからかいだしました。
その時のAさんは、このままにしておいたら人ひとり簡単にころしてしまうと思わせるような空気を纏っていました。
私と母含む女性陣がからかうのを止めるよう言っても酒の勢いは止まりません。
母は私と、比較的近くにいた猟師さんの奥さんに男性陣を小屋から出さないように頼むとAさんを連れて小屋の外へ出ていきました。
酔った男性陣が面白がってついて行こうとするのを奥さんと私とで「いい加減にしろ!」と止めること10分ほど、母だけが小屋に戻ってきました。
Aさんは酒を飲んでいなかったので先に車で帰したそうです。
焼肉が終わり、ぽつぽつと帰る人達に紛れ私と母も帰路につきました。
車の中で母から詳しい話を聞きました。
Aさんの先祖が首斬り役人でAさんには首を斬られた人達の恨みと、実際に首斬りをしていたモノが元々とり憑いていたこと。
その影響で首に痛みがあったこと。
それが目のように見える天眼石を見たことでAさんの自我を抑えて表に出てきてしまっていたこと。
もしあのまま放置していたら、最低でも怪我人、最悪タヒ人が出ていたであろうこと。
ちなみに母方の実家も先祖が武士の家系らしく、「○○(うちの苗字)家は武家。つまりA家の仲間だ。」と説得すると、明らかにAさんでは無い低い声で「仲間はころさぬ」と言われて寒気を覚えたそうです。
なんとか時代の変化と首を斬る事に囚われる必要が無いことを説いてAさん本人の自我を取り戻し落ち着いたところで、写経をしてきっちりと先祖供養と恨みの昇華をすることを勧めて帰宅をさせたとの事でした。
今でも猟師さん主催の焼肉に参加しますが、Aさんが来ることは一度もありません。
Aさんの名前を出す人もいません。
Aさんがあの後どうなったのか、母も私も知る由もありません。
拙い文章ですが、最後まで読んでいただきありがとうございました。