いわくつきの格安物件

いわくつきの格安物件 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

もう十五年くらい前の話

当時母親が逃げて、父親と暮らしていたんだけど、これがどうしようもない男で、口ばかりのダメ人間だった。
その頃、親子そろっての居候生活から抜け出そうって事で、坂道の半ばにある木造の古いアパートに下見に行った。

今思えば、何でも自分勝手に決める父親が、当時高校生だった俺を、物件の下見に連れて行くなんて変だった気がする。
その部屋は入った途端に線香臭かった。
その臭いだけで怪しいと思いながら奥に入ると、部屋のど真ん中で線香を焚いていた。
その上を見上げると天井に大きな穴と、その真ん中を通る梁が見えた。
梁をよく見ると荷造りに使うようなビニールヒモのカスがいくつか垂れたままになっていた。
もうこれだけでビニールヒモで吊ったものが想像付いたけど、あえて案内した不動産業者に聞いたら

「前の住人さんがインテリアをぶら下げてたみたいなんですけど、跡が残っちゃったみたいですねー」

(どう見ても前の住人さんがインテリアになってたように見えますが?)
こんな部屋なのに結局住む事に。
きっと格安だったんだろうと思う。

住み始めてから夕暮れの薄暗い時間になると、時々その部屋にある窓の外で、頬がこけて目の下にクマがある、薄気味悪い印象の男が通り過ぎたり、窓からこちらを見るようになった。

ちなみにこの窓、アパートの裏手に面していて、そこはアパートを囲うコンクリ塀際の、どこにも繋がっていない、人がギリギリ通れる程度の隙間。
一度様子を見に通ってみたら、大きな石がたくさん転がっていて、好んで通りたい場所ではなかった。

そんなものも気にせず住み続けていたある日、その部屋に後輩たちを集める事になった。
理由はいわく付き物件での胆試し。
胆試しだから当然のようにみんな夜中まで居座る予定だった。

ところが夜が更けてきた頃に部屋の真ん中でふわりふわりと空気が揺れた。
その揺れはまるで、何か吊り下げたものが揺れているようでもあった。
その中の一人が、空気の揺れの中心をちらりと見てから俺に耳打ちしてこういった。

「あそこにぶら下がってるよ……」

こっちは言われなくてもわかっていたので

「あまりジロジロ見ずに知らないふりしとけ」

とだけ返した。

その後は一番強がってたやつがそっちを見てすぐに怯えるように帰っただけだった。
ちなみにこいつはそれ以来このアパートには一度も来た覚えがない。

その後も寝ている時にふと目を覚ますと、天井の穴が空いていたあたりから軋むようにギシギシと聞こえた。
結局、色々あってこの部屋には一年ほどしか住んでいない。

ちなみにこのアパート、現在は取り壊されて、ちょっと小ぎれいな感じのアパートに建て替えられていた。
あれは建て替えたところでどうにかなるものでもないと思う。
とりあえず格安物件を探して住むほどの貧乏にはならないほうがいい。
心霊がらみかはともかく、絶対にいわくつき物件であることは間違いないので。

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