悪魔のような妖艶な念

悪魔のような妖艶な念 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

あの日。私
は群馬の大間々と言う所のペットショップに子犬と子猫を見に行った。
ただ、どれも予算オーバーでがっかりしながらドライブがてらかなり遠回りではあるが大間々から足尾を通り日光方面へと向かっていた。

春先と言うこともあって7時を過ぎた景色はすっかり日が暮れていた。
足尾の町に入るか、入らないかのある個所で私はだんだんと体が重くなってきた。

『見られてる』

私は木が生い茂った山の中の景色に目をやった。
どれほどの念だろう。
それこそ、山全体に霊たちが住んでいる。
どこに目をやっても彼らの存在が感じ取れた。
ちょうど2月の半ばにいわくつきの峠に行ってきたばかりなのだがそこととても感じが似ていた。
やはり、山に逃げ込んで殺された落武者や女性の霊が多かった。
ようこそ。XX町へという看板には明らかに江戸末期から明治ごろの着物をきた髪の長い女性がへばりつきながら私に笑いかけていた。

「誘われてるかも」

私は運転していた連れに忠告した。

『ここの山もやばいところだよ。気を引き締めて運転してね』

ところが彼はすでに霊たちに囲まれていた。

『なんかハンドルが言うこときかない。頭もぼーっとしてる。でも大丈夫だから』

うつろな状態で話す彼の状態はとても大丈夫なものではなかった。

『しっかりして!ネコ見に来て死ぬわけに行かないのよ。情けないでしょ!』

私が言った。
彼の目はすでに眠気に誘われており両の手は操り人形状態だった。
あたしは彼の左手に手を置いた。
そして念を込め目を閉じた。
彼の顔が元に戻ってきたので私は後ろの席に移動した。
車の後ろのガラスに大きなもやがついてきたので追い払うためだった。
しかし。
山全体の木々に数え切れないほどの霊が宿っているこの場所では追い払っても追い払ってもいたちごっこのような気がした。
私は連れに

『あたしがいるから大丈夫だから。気をしっかり持って運転していて!』

と少し力を込め、大きな声で言った。
カーブの多いこの道をあっちに引っ張られ、こっちに引っ張られしながらそれでも、小さなトンネルを抜けある個所をすぎると嘘のように霊たちは山の中に引っ込んでいった。

『ん。おかしいなぁ』

私は不思議に想ったが連れには

『もう大丈夫、抜けたね手。元に戻ったでしょ!』

と声をかけた。
まもなく、予感は的中した。
車を走らせて時間がほとんどたっていないその場所にさしかかったとき私は妙な感覚に襲われたのだ。
甘美な、私にはめずらしいほどの吸い寄せられる感覚。
引っ張られるのではなく、自分から引き寄せられる感覚だった。
真っ暗なはずなのに、そこだけはオーラのようなまばゆく 強く妖しい、光に包まれていた。

『これって』

私は思わず声に出していた。
それは西洋の洋館そのものだった。
ドラキュラが住んでいそうな大きな、けれど美しい建物だった。
美しい。
この表現は違うかもしれない。
悪の魅力というか危険なのだが誘われずにはいられない恐ろしいばかりの妖艶な念だった。
車は止まることはなかったので一瞬のはずだったのだが私にはとても長い長い時の気がしていた。
目に一瞬入ったその洋館のたくさんの窓からは強すぎる悪霊の類などではない、悪魔のような念が放出されていた。
それはアマゾンの人食い植物が出すような甘い香りで私を誘っていたのだ。

『今のみたぁ?』

私は連れに聞いた。

『見たもなにも。なんなんだよ、今の恐すぎ。誘ってたじゃん。』

私のせいですっかり霊感がめざめた連れが震えながらいった。

『ね。戻りたい感覚ない?戻りたいって思ってるのあたしだけ?』

あたしはかまわず、聞いた。

『マジやばいって。誘われてるよ。今のはすごすぎる。あんなの見たことないよ。マジでやばいよ』

連れは真顔で私を見ながら車を走らせた。
私はいろいろな霊スポットに行った。悪霊もたくさん関わってきた。
でも邪悪を通り越した悪の甘い誘いを受けたのは初めてだった。

私はこの出来事から2ヶ月後。
どうしても見に行きたいと連れに頼み、昼間ならということでその場所に連れていってもらった。
私と連れが驚いたのは洋館だと思っていた館は昼間の姿がまるで違ってたことだ。
フォトの部屋にある通り、日本の建物であったこと。
なにより。生きている人間の香りがしたことが私たちを一番に驚かせた。
割烹なのか旅館なのかとにかく営業していた。
マジそれがもっとも恐ろしい。
足尾銅山は建設工事のときにかなりの人が死んでいる。
しかも外国から無理やり連れてこられた彼らは死んでからもあの場所からでられないのだろうか?
あの写真には韓国の中年の男の人が何人か写っている。
私はいまだにあの写真は悲しい気がしても恐いとは思えないのだった。

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