大概どのバイトにも、仕事できて社員にもバイトにも親しまれてるバイトリーダーみたいな人いると思うんだけど俺が学生時代にしてたバイト先にもそういう人がいた
名前はKさん
Kさんは仕事できる、顔はイケメン、いい大学いってて、更に性格も良くてほんとみんなに親しまれてた
俺もバイトしてる時は何度も助けてもらったし、バイト以外でも色々お世話になったりしてKさんが大好きだった
バイト先での飲み会や忘年会でもKさんは常にみんなの中心にいて、場を盛り上げてた
飲みつぶれた奴の介抱や、熱くなって喧嘩しそうな奴らがいたら止めたりと面倒なことも率先してやってくれた
Kさんは正にみんなの憧れだった
そのバイト先には俺と同期のSって奴がいた
Sと俺は同い年で同期ということもあって仲が良かった
けど残念ながらSはあまり仕事ができるほうでは無く、よく社員に怒られていた
そんなSだからしょっちゅうKさんに助けてもらってた
勿論SもKさんのことが大好きで、よく三人でバイト後にラーメン食いにいったりしてた
バイト先での飲み会があった次の日、大学もバイトも休みだった俺はSに呼び出された
Sは前日飲みつぶれていたこともあってか、元気が無い様子だった
「二日酔いは大丈夫か?話ってなんだよ?」
そう聞くとSはゆっくりと話し始めた
「先月あった飲み会なんだけど、○○がめちゃくちゃ酔ってたの覚えてるか?」
あぁあいつアホみたいに酔ってたなぁ
「で、いつものようにKさんが介抱してくれてたじゃん」
「俺結構遠くの席にいたんだけど、特に何も考えないでなんとなく介抱してるKさんの口元を見てたんだ」
「そしたらさ、なんて言ってんのかは全然わかんないんだけど、Kさん口元がずっと動いてんのよ」
「あれ?○○はどう見ても泥酔してるしKさん誰に話しかけてんだろ?とか思いながらボーッとそれ見てた」
へー・・と相槌を打つとSは続けた
「ほんで昨日の飲み会、お前も知ってる通り俺ベロベロに酔っちゃってすぐに記憶無くなったんだ」
「でも途中何故かちょこっとだけ意識があってさ、その時にやっぱりKさんが俺を介抱してくれてたのがわかったんだ」
「その時に微かになんか聞こえてくるんだよ」
「ん・・?Kさんなんかいってる・・?」
「なんだろう・・俺に何て言ってるんだろう・・って思いながら耳を澄ましたんだ」
「すると微かにだけど、確かに聞こえてきたんだ、Kさんの声で」
「おい、死ねよ、なぁ、死ねよ、死ね、死ねって、お前みたいな奴死んだほうがいいよ、おい、死ねって、ほらさっさと死ね、さっさと死ねって、自殺しろよ」
「死ねって、クソが、お前が死ねばみんな喜ぶから、死ね、頼む、死ねって、なぁ、死ね、グズが、死ね、死ね、死んでくれ、飛び降りろ、死ね」
「頼むよ、死んでくれ、死んでくれよ、グチャグチャになってさ、死ね、一人で死ね、死ねよ、ほら、死ね、ほら」
俺は言葉を失った
とてもSが冗談を言ってる様には見えなかったからだ
そしてSはこう続けた
「・・俺さ、Kさんにも、やっぱり悩みとか色々あると思うんだよ」
「俺はずっとKさんに頼りっぱなしで、甘えてた。正直みんなもそうだと思う」
「だから、俺はKさんに頼るのはもう辞めようと思う」
「Kさんも俺らと同じ人間なんだよ」
確かに、Kさんが冗談では無く本気で弱音を吐いたりしてるとこなんて見たことない
Kさんはみんなに親しまれて、仕事ができて、イケメンで、本当にやさしくて・・
そんなKさんにも、心の闇ってやつが確かにあるんだ
そう思った
「俺さ、今日Kさんと会ってみようと思う」
「大丈夫、バイトもやめないし、ちゃんと話するよ」
「あとこの話は誰にも言わないで欲しい。俺もお前に言ったことはKさんに言わない」
「休みの日に呼び出して悪かった、じゃあまた明日な!」
そういってSとは別れた
正直、俺はまだ信じられなかった
まさかKさんがそんなこと・・きっと、きっとあいつが酔っ払って聞いた幻聴だろう
そうに決まってる
あのKさんがそんなこと・・想像すらできない
そうして家に帰り、無理矢理に寝た
次の日、バイトに行った俺はSが死んだことを聞かされた
Sは昨日の深夜、裸で高速道路にいたところを車に撥ねられて死んだ
発見された時はもう原型を留めていなかったそうだ
Sの通夜ではみんな泣いていた
Kさんも泣いていた
俺は涙が出なかった
とにかく一人で酒を飲んだ
酒を飲んで、飲んで、飲みつぶれた
目が覚めると、Kさんが俺を介抱してくれていた
俺が「すいません、大丈夫です」と言うとKさんは俺の肩をポンと叩いて一言だけこう言った
「ざんねんだったな」
俺はそのあとすぐにそのバイトを辞め、大学も卒業して今は故郷を離れ働いている
Kさんはどこかいい会社に入って早々に出世し結婚して子供が産まれたと聞いた