3年ほど前の事は以前に書いたのですが、これは僕がそれ以前に体験した話です。
忘れもしない、それは僕が大学3年の夏の話です。
僕はいくつかのバイトを掛け持ちしていたのですが、その一つに学校の近くにある居酒屋でのバイトがありました。
そこでは同じ学校の生徒が多く働いており、必然的に仲良くなりよく遊びに行くようになりました。
特に仲良くなったのが同じ下宿生活をしていたIとTでした。
あるとき僕の家で飲んでいたときのことでした。
Iが突然「心霊スポットでも行こうか」と言い出しました。
話を聞くと、同じ学科の友達からの情報で、地元では有名ないわゆる「よく出る」スポットだそうです。
僕達は酒に酔っていたのも手伝って行こう行こうということになりました。
そのとき僕達はIとIの彼女A子(としておきます)とTと僕の4人でした。
僕とI,A子はA子が運転する軽自動車で、Tは原付で行くことになりました。
そこはK市にある廃墟になった病院でした。
病院は白色の3階建てで横に広い大きな物でした。
壁は所々剥れて窓ガラスは割れ、あちこちに落書きがしてありました。
僕達は正面玄関の前に車をとめ、持参した懐中電灯で中を照らしました。
いかにもといった感じの建物でしたが
「幽霊より族の方が怖いよな。」
と冗談を言い合いながら僕達は中に入って行きました。
正面玄関のドアはガラスが割れ、鉄の枠だけになっていました。
そこをくぐるように抜けると正面に受付がありました。
受付の中は書類のようなものが散乱し、受付の横にあるロビーにはジュースの缶や瓶が散乱していました。
受付を中心に左右に通路が続いていました。
左右の通路にライトを当てて見ると左側に診察室が右には食堂や売店の文字が見えました。
僕達は誰ということも無しに、左側の診察室の方に足を向けました。
通路の両側に診察室があり、内科・耳鼻咽頭科等々部屋毎にプレートが貼ってありました。
僕達は内科の診察室の中に入ったのですがやはり荒らされており医療器具らしきものもありいかにもという感じでしたが、ここも落書きがひどく、怖いという感じはしませんでした。
僕達はがっかりという感じでそこを出ました。
もう帰ろうかと思ったのですが、せっかく来たのでもう少し探検してみようということになり、ロビーの前に2階に続く階段があったのでそこを上がってみることにしました。
2階は以外と綺麗で落書きも余りありませんでした。
左右の通路を照らしてみるとそこは入院用の部屋として使われていたようです。
僕達は右側の通路を選び一番手前の部屋を覗きました。
部屋にはパイプベッドが4つあり正面に時計が書けてあるぐらいで、何も変わったことはありませんでした。
僕達は次々に部屋を覗いて行きました。
幾つ目だったでしょうか、僕はあることに気がつきました。
部屋の時計がすべて2時でとまっているのです。
僕は自分の時計を見てみました。2時をさしていました。
恐ろしくなった僕はそのことをみんなに話しました。
すると皆「偶然だろ」と取り合ってはくれません。
更に奥の部屋へと進んでいきます。
やはりどの部屋の時計も2時で止まっていました。
流石に気味が悪くなったのでしょうか、戻ろうということになりました。
その時です。
通路の反対の方から「カツン、カツン」という音がははっきり聞こえてきました。
タイルの上をヒールかブーツで歩くような・…。
皆顔を合わせると一斉に走り出しました。
僕は部屋部屋の時計を横目で見ながら走りました。
時計は確かに2時を指していました。
階段を駆け下り玄関を抜けて一目散に車に向いました。
それでも「カツン、カツン」という音は徐々に大きく聞こえてくるのです。
まるで頭の中でこだまが響いているように。
僕達が走るよりも早く。
徐々に近づいてくるように。
慌てて車に乗りこみエンジンがかかった時、車が少し「ガァクン」と動くのを感じましたが、そんなことは気にもならず一刻も速くそこから逃げ出したい気持ちで一杯でA子に
「早くだして!!」
と怒る様にIが叫びました。
ものすごい勢いで車は病院の敷地から抜け出しました。
一人で原付に乗っているTのことが心配でしたが、そのときはそれよりも早くそこを抜け出したいという気持ちでいっぱいでした。
敷地を抜け狭い一般道に入った時車の横をTの原付が走り抜けていきました。
僕は大分冷静さを取り戻していたので、Tの姿をみてホッとしましたし、
もう大丈夫だろうとスピードも落として走っていました。
しかし、Tはフルスロットルで走り抜けていきましたが、あっと思うまに横転してしまいました。
幸い擦り傷程度で済みましたが、ヘルメットを脱がすと顔色は真っ青でした。
彼は見たのです。
僕達の車の後に髪の長い女がへばりついていたのを。
僕は車にTを乗せ、変わりに原付に乗って取り敢えず僕の下宿先に行こうということになりました。
その夜は流石に一人でいるのは怖かったのでみんな僕の家に泊まっていくことになりました。
朝になるとTも大分落ちついて、皆家路につきました。
僕も昨夜のことは忘れようと思ったときでした。
家の電話に留守電のライトが点滅していました。
そういえば昨日は気がつかなかったな、と思いながらボタンを押したのです。
「(一件です。)・……………………・……ころしてやる・・…(午前2時0分です。)」
押し殺したようなだみ声が僕の部屋に響きました。
恐ろしくなった僕は受話器を手に取ろうとしたときです。
電話が鳴りました。
恐る恐る受話器を上げると電話はTからでした。
Tは僕に震える声でこういいました。
「・・…もしもしおれ…、実はいま家に帰ったら留守電に・・……」