紫鏡

紫鏡 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

手鏡あなたは『紫鏡』という言葉をご存じでしょうか。
この言葉を知っている人は、20歳の誕生日までに忘れてしまわないと、鏡の世界に引き込まれ、死んでしまうという話です。

この話の発端となるのは、私が小学3年生の時の担任の先生が住んでいた、東京都八王子市にあると聞きました。
昔、八王子にはライ病患者の隔離施設が存在し、ライ病患者達が不治の病と共に生活していました。
ライ病とは皮膚病の一種で、肌がただれ、人によっては、ただれた肌が紫色に見えることから、『鏡に映った自分が紫色に見えたら・・・』ライ病が発生し、死に至るという事が、紫鏡の発端だったと聞きます。

先生が子供の頃もこの話は有名で、「今A君が紫色に見えた」「B君だって紫色の服着てるじゃん」・・・・・・などと、冗談混じりながらも怯えていたそうです。
休み時間ともなれば、学校で鏡の前に立つそうです。
自分が紫色では無いことを確認するのを面白がってやっている時、ふとA君が、「今、鏡の中の僕が笑ったよ」と言いました。
「A君はいっつも笑ってるじゃん」ちょうどチャイムが鳴ったので、みんな笑いながら教室に向かいましたが、A君だけは青ざめた顔をしていました。
先生は子供ながらに何か嫌な予感がしたらしく、A君に大丈夫だよと促しました。

翌日、事態は一転しました。
A君が学校に来ていません。

「先生!A君はお休みですか?」

クラスの誰かが訊きました。
すると先生から、

「悲しいお知らせですが、A君は昨夜、心臓発作で亡くなりました。
A君の為にも、お通夜には参加しましょう」

クラス中が動揺する中、先生はピンと来ました。
その日の昼休み、いつものように友達と集まっている時に言いました。

「昨日、A君さぁ・・・鏡の自分が笑ったって言ってたよね。
何か関係あるのかな?」

周りのみんなはそんなことある訳がないと、怯えながらも強い言葉で否定しました。
自分だって信じたくはありません。
でも、もし・・・
お通夜でA君の家に家族で行きました。
みんな黒い服で、カラスの集団のようでした。
花と線香をあげると先生は、

「A君が見たい。
・・・おばちゃん、最後にお別れが言いたいからA君を見せてよ」

しかし、おばさんは幼い息子を失ったショックでか、浮かない顔をしていました。
先生も子供ながらにそれを察知して、無理強いはしなかったそうです。
お葬式も終わり、クラスの皆も落ち着きを取り戻した頃、先生はA君の家に線香をあげよう、と言いました。
学校が終わり、友達とA君の家に行った時の事です。
おばさんに線香をあげに来たと言い、上がらせてもらいました。
そして、みんなが線香をあげて帰ろうとした時、「○○君、ちょっといい?」おばさんが先生に声をかけたそうです。

先生は残り、他の友達は帰宅しました。
A君と一番仲の良かった先生だけが、残るように言われたからです。

「実はあの子が死んだ朝、最初に見つけたのは私なのよ」

おばさんは続けて言いました。

「時間になっても起きて来ないから、起こしに行ったの。
最初に見た時、あの子の体が黄色になっていることにすぐ気付いたわ。
横向きになっていたんだけど、触れたら体が冷たいから急いで顔を見たら・・・
言葉では言い表せないほど、怯えた表情だったの・・・」

先生は最後まで聞きました。
目は白目をむいていて、舌が飛び出し、腕が間接とは逆に曲がっていたそうです。
お通夜で見せられなかった理由もそれのせいだったと、おばさんは伝えてくれました。
先生も大学生になり、線香はあげていたものの、A君の死因を忘れかけていました。
当時所属していたサークルでも人気で、一番可愛い女の子と付き合っていたそうです。
先生の家族が旅行で居ない時に、彼女を家に呼びました。
二人でテレビを見たりしながら、イチャイチャしていたそうです。
先生がお風呂に入り、次に彼女が入りました。
洗面所で髪を乾かしている彼女が、こう言います。

「ねぇ、○○くん、今ね、鏡の私が笑ってた。
幸せだからかな?」

その言葉を聞いた瞬間、背筋がゾッとし、全てが走馬灯のように記憶として甦(よみがえ)りました。
今夜、何が起こるんだ?いや、あの時のA君は単なる病気だし、何も起こらないかも知れない。
でも、もし・・・記憶を押し殺すかのように、先生は何も知らないフリをして、夜を迎えました。
何かがあるなら見届けようと・・・時間は午前2時半になろうかという時です。
彼女は先に寝ていましたが、先生はテレビを見ていました。
すると、ベッドで寝ていた彼女が突然動き出したのです。
先生は恐る恐る布団をはぎ取りました。
足元には見たこともない手鏡から、笑顔の彼女が足を引っ張っています。
必死で引っ張り返しましたが、あまりに強い力にとうとう彼女は、鏡の中に吸い込まれてしまったそうです。
先生は怖くなり電気を点け、警察に連絡しましたが、そんな冗談のような話を信じてくれるはずもなく、ただただ警察が来るのを待ちました。

すると、突然ずしりと、肩に重みがかかりました。
よく見ると、黄色い人間の手です。
振り解いてみると、見るも無残な姿の彼女がいたそうです。
さすがに警察も乗り出し、死因を調べましたが、心臓発作によるものと断定されました。
先生はその影響によるショックで髪が白くなってしまい、しばらく入院しました。
私が小学生の時に先生は27才でしたが、真っ白い白髪でした。
若爺さんとも呼ばれていました。
先生はこの話をした後、こう言いました。

「誰もが一生に一度は訪れる現象です。
もし鏡の中の自分が笑ったら、決して誰にも言わないように。
そして怖がらず、優しく微笑み返して下さい」

と、涙ながらに喋る姿は小学生ながらも、クラス中が本当なんだと感じました。
この話を知らない友達が、仲間内で「鏡の中の自分が笑った」と言い、心臓発作で亡くなったことが私の身近でも一度だけあります。
笑いかける鏡の自分は、鏡ではなく水面やガラス、また会話している人の目にも映ることがあるそうです。
ひょっとすると自分の知らない間に笑いかけているのかも知れません。

うかつに鏡の中の自分のことを、他人に語らないようにした方が賢明だと思います・・・

★この話の怖さはどうでした?
  • 全然怖くない
  • まぁまぁ怖い
  • 怖い
  • 超絶怖い!
  • 怖くないが面白い