気付いてやれよ!

気付いてやれよ! 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

私がまだ大学生だったときの話です。

当時、私たちは隣町の同じコンビニでバイトをしていました。
バイトの時間は、私は土日の夜中だけ、H君が平日の午後、そしてO君が水~金の夜中と、見事にバラバラでした。

その日は平日だったのですが、なにやら朝から伝票の整理とか大仕事があったとかで店長さんが忙しく、H君は交代のO君が来てもまだ店長に付き合って残っていたそうです。
店長がその日の事務仕事を片付け終わり、H君も最後の掃除を終えて帰り支度を始めたときのこと。
店番をしているO君が青い顔をして奥に入ってきました。
ただ事ならぬ雰囲気を感じとり、店長が尋ねました。

「どうしたん、O君よ?」
「今、自動ドアが開いたんです・・・誰もおらんのに」
「たった今? でもチャイムは鳴らなかったよね。」
「いや、それが・・・僕の目には見えへんのですけど・・・」

コンビニには防犯用のモニターが設置されていました。
このモニターはレジでも奥でも見られるようになっています。
O君が口ごもったのを見て、二人はそれを覗き込みました。

インスタント食品の棚の間を、髪の長い女性が歩いていたそうです。
白いワンピースでふらふらと。
首を左の肩につけるくらいに折り曲げて。

一目見て、これは普通の生きている人間ではないと感じたそうです。
ヨタヨタと歩を進めるたびに、首がぶらぶらしています。

「やっぱりここのモニターでも見えるんですね・・・この人、目じゃ見えないんですよ」

O君の小さな声を聞きながら、店長もH君も固まっていたとか。

「それでですね、ブックコーナーで立ち読みしているお客さんが一人いるんですけど・・・一体どうしましょう?」

三人は顔を見合わせ、そのままモニターの前から動けなくなりました。
件の女性は店内をあてどもなく歩き回っていましたが、やがて目標を定めたようにブックコーナーへ向かいました。

ブックコーナーには確かに男性客が一人いました。
小太りで眼鏡をかけ、トレーナーとジーンズ姿で、一心不乱に男性週刊誌を読み耽っていたそうです。
女性はどんどん客に近づいていきます。

「・・・これって知らせた方がよくないですか?」
「幽霊が後ろに立ってますって声かけるのか?」
「いや、なんか、それもちょっと・・・」

誰も絶対にその女性の近くに寄りたくなかったんだそうで。
三人が見守る中、男の後ろでそれはピタッと立ち止まりました。

やがて女性は激しく首を振り始めました。
身体の動きに一テンポ遅れて首が振られるのが、じつに恐ろしく異様な光景だったそうです。
しかし、男性は気付く様子がありません。
首を振りながら、女は男の後ろをウロウロし始めました。
髪の毛がばさっと乱れます。

しかし、それでもやっぱり、男はまったく気付かないのです。
いや、初めて男が動きました!
さては気が付いたか、と思いきや、今度は別の週刊誌を手にとって読み始めました。
ああ。すぐ後ろでは首ぶら女が激しく身体を打ち振っているというのに。
そのうち、女性は身体を揺らすのを止め、ふらふらと店から出て行きました。
やはり自動ドアは開いたものの、チャイムは鳴らなかったのだそうです。

店長はしばらく呆然とした後、頭を一つ振ってレジの方へ向かいました。
残る二人もついて行きました。

三人は、しばし無言で立ち読み男を見つめたそうです。
自分を見ている視線に気付いたのか、男は急に立ち読みを止め、飲み物とスナックを手にしてレジに歩いてきました。
何を感じたのか、少し申し訳なさそうな顔をしています。

レジの上に商品が置かれても、三人は黙って男を見ています。
男は不安になったようで、しばらくモジモジしていましたが、

「あの、それを買いたいンですが、レジをお願いします」

と言ってきました。
店長が一言答えました。

「気付いてやれよ!」
「???」

男は何を言われたのかさっぱりわからないようで、目を白黒させていました。
傍観者が思わずそう言いたくなるくらいに、女が後ろで揺れていた時間は長かったそうなんです。
最初は恐ろしくてどうしようもなかったのが、最後は「あー、もうっ!」てな感じで焦れてしまったのだとか。

私はこの話を聞いて、自分の夜勤のときにもこの人は来るのだろうかと、しばらくドキドキして仕方がありませんでした。
見てみたいような見たくないような。
この一回きりで、その女性が姿を見せることはなかったようです。
私の身近で起こった、恐ろしくてしかしどこか抜けてる話でした。

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