バス停の女

バス停の女 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

これは友人からの話。
事件というか話の流れをリアルタイムに聞いていたんだけど、それをまとめてみた。
日付や名前はフィクションという事で聞き流してもらいたい。

一度目
雨の金曜日。
彼はいつものように仕事帰りの道を愛車で帰宅していた。
彼の名前は孝史。
仕事が長引いた事もあって友達との連絡を取りそびれ、週末だと言うのにどこにも出かけられなかった。
孝史はごくごく一般的な20代後半社会人で、家に帰ればネットもするし男同士で集まれば、女の子と飲みに行くあてはないかとみんなで話し合う、これといって目立つところのない男だった。
それに、彼はそこまで積極的なタイプではなかったので、飲んだ勢いで複数で女の子をナンパする事はあっても、単独で女の子をナンパするなんて到底出来るタイプではなかった。

ところがその日は違った。
帰宅途中、自宅を目前にしていつもと違う光景に遭遇したからだ。
雨の中、とっくにバスが終わっている時間なのに女の子がベンチに座っている。
傘もさしていなければ、うつむいていて誰かを待っている様子でもない。
まさかそんな光景に遭遇するとは思っていなかったから、当然気が付いたときは通り過ぎていた。
慌ててブレーキを踏んだところで、間に合うはずもない。
どうするべきか悩みながらも孝史は車を自宅の方向に進めていた。

「そうだ。もう一度だけあの場所を通って、まだいるようなら声をかけてみよう」

自宅直前になって車をUターンさせ、さっきのバス停の前を通る。
反対車線からも彼女が座っている事は分かるが、少し距離が遠くなったせいか様子までは分からない。
通り過ぎた後、再度Uターン出来る場所を探して、今度は慎重にバス停に近づく。
いざ声をかけようと思うと、けっこう勇気がいるものだ。
その上、孝史はナンパの経験がない。
女の子の容姿を確かめようと、速度を緩めてバス停にさしかかる。
うつむいてるせいで顔がよく見えない。
ただ、特別太ってるわけでも無ければ、病的に痩せてる雰囲気も無い。
孝史は悩んだ。
バス停の前でほぼ停止状態になった。
それでも女の子はこちらの様子に気が付くそぶりもみせず、黙ってうつむいている。
後続車が来ている事を気にして、結局声をかけないまま、また通り過ぎてしまった。

でも、やっぱり気になる。
偽善者的な考え方かも知れないが、

「変な男に捕まったら可愛そうだ。」
「せめて自宅まで送ってあげるぐらいしてもいいはず。」
「もしかして、財布を落として困っているのかも…。」

など、様々な重いが錯綜する。
結局、また自宅寸前でUターン。
対向車線から眺めると、まださっきの女の子は座っている。
慌てて再度Uターン。
バス停まで気持ちが焦った。
そして、バス停に差し掛かった時、状況が変わった。
女の子が立ち上がって歩き出そうとしたのだ。

「このタイミングを逃すと話しかけられなくなる」
「可愛くなくても、ちょっと送るぐらいなら…」

色んな思いよりも先に、孝史はほぼ反射的にクラクションを二度鳴らしていた。
歩き出そうとした女の子は、バス停に停まった孝史の車の方に身体を向けずっとうつむき加減だった顔を上げた。
暗くて分かりにくいという要素はあるが、孝史の目には<相当可愛い>女の子に見えた。
髪の毛は肩ぐらいまで、パーマをかけていて栗毛色。少し幼い感じのする顔立ちだった。
傘が今更無意味だとは知っていたけれど、他にどうしていいかも分からないので女の子に向かって傘をさしかけ、

「こんな時間にどうしたの?濡れるから、とりあえず車に乗りなよ」

女の子は自分から動こうとしなかった。
助手席のドアを開け、手を引くように車に乗せた。
どのくらい雨に濡れていたのか分からないが、ウェーブのかかった髪からは絶えず水が滴っている。
バスタオルを渡し、車のエアコンを強めの暖房に。
孝史は助手席がびしょ濡れになる事を心配していたが、今はそれよりもこの女の子との展開に期待と興奮していて、どうでもよくなっていた。
相変わらず女の子は話さない。
孝史は車を一旦移動して、国道近くの交通量の少ない場所に停めた。
ナンパをした事も無い自分の車の助手席に、ずぶ濡れの女の子が座っている。
今はもう、心配するとかよりもこの女の子に対する興味でいっぱいだった。
服が濡れているせいで、身体のラインがはっきりと分かる事にも気が付いた。
ブラウス越しに淡い色の下着が透けている。
この状況でも孝史は女の子に無理矢理襲いかかれるタイプではないし、とにかく女の子の話を聞くべきだと思った。

「人をね、待ってたの…」

強めの暖房と湿気で、車の窓が真っ白になった頃やっと話し始めた。
名前は美奈・21歳・フリーター。
実家に住んでいる。

「もうこの時間から家に帰れない…。」

孝史が次の展開を期待してしまうような一言が美奈の口から出た。

「うちに呼ぶわけにもいかないし、濡れた服も乾かさないと…どうする?
どこか入った方がゆっくり出来ると思うけど」

そう言いながら、もちろん孝史の頭の中はラブホに連れ込む事しかなかった。

「何にしても服を乾かさないとね」

など、偽善者的ないい訳を並べながら目的地は国道沿いのラブホだった。
部屋に入ってから孝史は美保にお風呂に入る事を勧めた。
ほどよく細い身体のラインといい、顔立ちの幼さも孝史の好みに合っていた。
お風呂上がり、美保は何の躊躇もなくバスタオル一枚で出てきた。
脱いだ服どころか、下着までが洗面所に干してあるのが見える。
身体が冷えてるだろうから、とベッドに入る事を勧めながら、孝史も寄り添うように隣に横になる。
特に嫌がるそぶりもないし、孝史は「これならいける」そう思った。
暖める事を口実にするように抱きしめ、バスタオル越しに感触を味わった。
ここで抵抗されないと、もう歯止めがきくはずもなくバスタオルをはぎ取った後は、予想通りの展開になっていた。
積極的では無いものの、ほどよく火照った体と、我慢するような吐息、孝史は自分の欲望を思い切りぶつけた。
そのまま朝を迎え、孝史は美奈を最初のバス停まで送る事になった。
お互いに連絡先を交換した訳でもなく、孝史にとって一夜限りの幸運。のはずだった。

二度目
その翌週の金曜日。
またもや帰宅が遅くなった孝史は、先週の事を思い出しながら車を走らせていた。
あぁ、この先のバス停で…
と、思ったときあの時の女の子がバス停に座っている。
間違いなくあの子だ。
孝史は迷う事なく車を停めて声をかけた。

孝史を待っていたらしい。
少しドライブに行く事にして、お互いの事を少し話した。
美奈は実家に住んでいて、妹が一人。
家は自営業らしい。おばあちゃんも一緒に住んでいる。
彼氏のような人はいたが、曖昧なまま捨てられてしまった事。
(前回、雨の中待っていたのはその男だったらしい)
そして、当たり前のようにラブホに入った。
美奈の身体を堪能し、また元のバス停に送る。

三度目
また次の週の金曜日。
孝史は一度帰宅していたが、美奈の事が気になって夜遅くなって例のバス停に向かった。
当たり前のように美奈が座っている。
また声をかけ、人気のない所にドライブする事になった。
そして、車の中でのSEX。
そして、また例のバス停へ。

こんな事が二ヶ月ほど続いた。

本来ならここまで続けば付き合う話になりそうな物なのだが、孝史はいまいち踏み込めない部分があった。
美奈の陰の部分、どこか深入りするのが怖いような…。
具体的には、会うたびに何か孝史の持ち物を欲しがる。
使っている100円ライターだったり、有料道路の通行券だったり、もう使っていないインクの切れたボールペンだったり…。
価値があるとか無いとかではなく、孝史の物ってだけで満足そうなのだ。
それに、孝史は今まで一度も避妊していない。
美奈はおとなしく従順なのだが、避妊だけはかたくなに拒む。
孝史は何か裏があるのでは、と恐ろしくさえ思うようになっていた。
そんな事情もあって、孝史はまだフルネームも住所も連絡先も教えていなかった。
車のナンバーから調べれば、分かると言えば分かるがそればかりはどうしようもない。

そう思ってる矢先、長期出張の話があがり三ヶ月ほど県外に出る事になった。
出発は次の木曜日。
美奈に伝える方法も無いし、この際縁を切ろうと思っていた。
ばたばたと出張の準備をする中、携帯が鳴った。
一つ上の会社の男の先輩からだ。

「なぁ、誰か女紹介してくれよ」

単刀直入に言うとそんな内容だ。
強引でわがままな先輩の頼みに困っている時、美奈の事を思い出した。
自分が出張中に車を貸すから、この時間帯にここを通るといいですよ、と。

そして、孝史は木曜日に予定通り出張に出かけた。

ここからは先輩の話。
言われたとおり、例のバス停に向かった。
その日は雨だったのだが、傘もささずに女の子が座っていたらしい。
欲求不満の先輩は、女の子に声をかけた。
簡単に乗り込んでくる彼女。
先輩は彼女がおとなしく無口な事をいい事に、すぐにラブホに連れ込んだ。
たっぷりと楽しんだ後、帰りの車の中で彼女がこの車の持ち主について執拗に知りたがる事をうっとおしく思いだした。
もちろん、持ち主について語るという事は、自分の身元もばれる事に繋がる。
先輩は、避妊しなかった事で一夜限りで逃げたかったのだ。
適当にごまかしたり、嘘を教えたりしながら帰路についていた。
途中、煙草を買うためにコンビニに寄る事になった。
彼女は助手席に乗ったまま。
ところが、煙草を買って戻ってくると彼女がいない。
例のバス停まで近かった事もあり、歩いて帰れる距離だったんだろう。
と、楽観的に考えた。
なにせ、先輩にとっては面倒はごめんだったから、都合良かった。
話はそれで終わり。

車は、孝史の駐車場に停め、先輩もその後短期の出張があったり、元カノとよりを戻したりで孝史の車を借りてナンパする事もしなかった。



その後、孝史は出張から戻ってくる。
久しぶりの自分の部屋。
もちろん、出かける前と特に変わった事は無い。
トイレに入った時、ティッシュペーパーが切れている事に気が付いた。
そして、近所のショッピングセンターに行く事になる。

買い物を終え、荷物を入れようとトランクを開けたとき、異常な光景を目にした。

トランクを開けた裏側の部分、ちょうど荷物を載せようとした目線の正面に

「孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史…」

何かでひっかいたように、孝史の名前が無数に刻まれていた。
そして、何故か無数の長い髪の毛。
美奈に渡したはずのインクの切れたボールペン。

それ以来、孝史は通勤路を変え、車も買い換えた。
買い換えた後、一度だけ金曜日の夜に例のバス停を通った。
バス停の陰に、誰かが立っていた…ような気がしたが、怖くて直視する事も出来なかった。

END(名称はフィクションですが、ストーリー自体はノンフィクションです)



友人から聞いて、ずっと投稿するか悩んでいた話です
ちなみに、そのトランクの内側の状態は自分でも見ました。
見た瞬間、鳥肌が立ちましたけどね。

名前に関しては実名はまずいと思ったので適当につけたんですが女の子の名前に間違い(統一してない)ところがあったのは校正ミスです。
ごめんなさい。

ちなみに、もちろん友人は住所も変わり駐車場も別の所になりました。

★この話の怖さはどうでした?
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