轟さん

轟さん 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

「あの日」以前も以降も、お化け的な物は一切見たこともなく、できれば今後も見たくは無いのだが、10年以上経った今も怖い話というと鮮明に思い出す「あの日」のことを語ろうかなと思う。

呪いとか人が死ぬといった類ではないので、今ひとつパンチがないと感じられる方も多いかと思うが、これは、「霊の存在を、なんとなくは信じてるけど、自分の目で見ない限りはなんだかなあ」と思っていた青春の日の俺が、それを目の当たりにするまでの体験を余すところなく再現した真実である。

できるだけ読みやすく簡潔化するよう心がけたいが、「どこそこで、こんなモノを見ました」というよりも、そこに至る過程の方が自身の体験としては怖かったので、かなりの長編になるかもしれないが、興味のある方は、めげずにお付合い頂きたい。

それでは、ご覧いただこう。(続)

・判り易いよう、以降名前を「轟さん」とする。
・話の内容から3部作にしようと思う。
「登場人物」
東京のとある4流大学のとある部活のつまらない4人の仲間達。
部活の内容とは関係なく、夜メンバーが集まると「怖いとこ巡り」と称して色々な近郊スポットを探索して、いつしか「心霊研究会」と自らを呼ぶようになった。

・俺 
怖い所に行って、結局何もなく帰ってくるのが好きなビビリ
 K子の話では霊に強い体質らしい。(意味不明)
・K子  
同級生。霊感があるらしく、気配を感じたり、たまに見えたりするらしい
・Zさん 
先輩。見た事はないが、気配を感じたり、不思議な体験を多数したことがあるという
・H   
先輩。K子の彼。霊感があると言っているが、いつもK子に話を合わせてるだけっぽい。胡散臭い奴

第1部 「序章~第1回 等々○不○」
行く先のネタに枯渇して、活動休止中だった研究会だったが俺がTVの特集で等々○不○で夜、白い着物の女性の霊が現れるという情報を入手し、早速、突撃することに。
この日は特別に当時の俺の彼女も参戦し、計5人で行くことになった。

住宅街の家の切れ間にひっそりと、そこへの入り口は明滅する街灯の中に浮かび上がっていた。
そこから闇へ続く長い下り階段。
雰囲気だけで相当恐ろしいので、階段を1歩下りる度に空気が重くなる感じ。
恐怖という自己暗示がそうさせているのだと自分に言い聞かす。

階段を下ると渓谷沿いの細い遊歩道が続く。
道の先には、ぽつぽつと街灯が辺りを照らしている。
その灯りを頼りに我々は先に進んだ。

途中、右に入る小道があり、我々は、先ず、目的の直進ではなく、右手の小道に入ることにした。(続)
右手の小道は林の中に続いていて、石畳の道になっていた。
その石畳の道が直角左に折れる。先頭の俺が左に折れ、後に続くZさんが角に差し掛かった瞬間、

「やべー、ここに境界線がある」

と言った。
K子も「ほんとだね、こっから向こうはいっぱいいるね」と言う。
慌てて2人を先に行かせて「見えるの、何か?」と聞く俺。
「見えないけど、感じがする。子供かな、これは」とK子。

そして、「ああ、これがあるからだ」とKさんが言った先には「稚児木像」という等身大くらいの小さい子供の木像が、祠の中に鎮座していた。
これを見る前に子供と言ったK子の言葉と合致した事が怖かったが、俺は、鈍感なので、その周りに集まる子供の霊というのは感じる事もなかった。
そして、本線(遊歩道)に戻るべく、我々は引き返した。(続)

本線に戻り、視線の先には滝が落ち、その下に数体の地蔵が並んでいる。

「あそこにいるねー」

とZさん。「こっち見てるー」とK子。
相変わらず俺にはわからない。
さらに歩を進めると、橋があり、その先に長い上り階段。
俺が橋を渡ろうとすると、Hが「ちょっと待った。行かない方がいい」という。
すると彼女が「頭痛くなってきた」と言う。

せっかくここまで来てという俺の気持ちを遮るように、皆が今日は帰ろうと言う。
仕方なく、その日は断念し車に戻ると彼女が「戻る途中、子供のバイバイって声が聞こえた」と言うが気のせいだろと言い聞かせたが、俺自身、今まで行った中でここが一番怖いなとおもった。

そして、後日、ここで遭遇することになるとは、この時誰も思わなかっただろう・・・・ 第1部完



第2部「出逢い~緑ヶ○霊園」
それから半年も経っただろうか、4人は川崎の墓地へ行った。
墓地脇の池に嵌って亡くなった子供の慰霊碑があり、なかなか怖いという情報だった。

着いてみると、そこには1台のタチの悪そうな車が止めてあり、案の定、慰霊碑の前にはヤンキーな方達4人がたむろっていた。
俺は怖いのだが、Zさんは「なんか見えたー?」と友達のように声を掛けながら近寄って行く。
するとヤンキーAが、「見えないけどやっぱいるね、さ○し君(嵌った子の名前)」という。

驚くことに、初対面のヤンキーもZさんもK子も、慰霊碑の裏の木の陰から、こっちを覗く子がいるという話で一致していた。
「君、霊感あるねー」とZさん、ヤンキー達と意気投合し、お互い知ってるスポットの情報交換をした。
そこで我々は、多摩川挟んですぐの、例の等々○不○を紹介した。(続)

さらに「車座になって呼んでみようぜ」と慰霊碑の前で4流大生とヤンキーの計8人で車座になって目を閉じた。
「うわ、俺の後ろにきたな」とZさん。
ヤンキーA「ほんとだ、今、いるね」俺、マジで怖かったけど、勇気を出して、恐る恐る正面に座っているZさんの方を見た。
しかし何も見えない。
すると、俺から見てZさんの右方向のAとK子がほぼ同時に「今、ここだ」と言う。やはり、見えない。

突然、ゾクっと身震いがきた。
「うわ、寒気した」と俺が言うと右隣のヤンキーBが「俺も、今でしょ?」と言う。
するとZさん

「だってお前らの後ろにいるもん」

今まで、研究会の仲間を疑っていた訳ではないんだが、見も知らずのヤンキー達と言ってることが次々と合致する為、なにかこの日は違うなと、肌で感じていた。
ヤンキー達は、教えた等々○に行くと言うので、帰り道だし、案内してやるというZさんの提案で我々は再び彼の地に行くことに・・・・。

そして人生最初の体験をすることになる。
第2部 完 



「最終章 第2回等々○不○~俺は自分に言い聞かす、錯覚だと」

あの入り口は相変わらず明滅する街灯の元、ひっそりと浮かび上がっていた。
「俺ら1回来たから、先歩きなよ」とZさん。
ヤンキー4人の後、階段を降りる。
ズンズン空気と肩が重くなる。
自己暗示とは言え、ほんとにここは怖い。

例の右に入る道だ。
「先ずそこ右」Sさん先を歩くヤンキーに指示を飛ばす。
4流大が道に入った時、ヤンキーAがこう叫ぶ。

「ここに境界線がある」

泣きそうなくらい怖かった。
実際、俺は何も感じない。
TVだったら絶対やらせだと思うだろう。
しかし、あえて何の前情報も与えず先行させた、数時間前に会ったばかりの人間が半年近く前にZさんの言った言葉を1字1句違えず、同じ場所で叫んだのだ。

そして、滝の下。
またしてもAが「なんか、こっち見てるね」「君、いいねー」と喜ぶZさん。
もう、このあたりから、恐怖を超越して、達観というか、例えばリンゴを見て、みんながそれをリンゴと言うのが当たり前のようにこの人達には、それが当たり前の世界なんだと思うようになった。

そして、橋の手前に来て、橋の先にある階段を見上げた時だった。
みんな「あっ」とか絶叫というより、声が漏れるという感じだったと思う。
誰一人大声は出さなかったと思う。
俺は声すら出なかった。

ついに来るべくして来たか。
という、あれだけ恐れていたものを実際に見たのに、とても冷静に受け入れてる自分がいたことを鮮明に覚えている。

しばらく呆気にとられた後、認めたくないという相反する気持ちが湧いてきた。
そう、月明かりの影なんだと強引に自分に言い聞かせて。
しかし、月が作り出した陰影にしては、それはあまりにも具体的な形をしていた。

俺は「なにが、見えるの?」と嘯いた。
俺以外の7人が「なんでわかんねーんだよ」「女がいるだろう」みたいに言った気がする。
(女?ビンゴだよ)恐らく、俺に見えてるモノが他の7人にも差異なく見えているのだ。

俺「もしかして、階段の真中あたり?座ってるよねえ?」
皆「そうそう」
俺「白い着物みたいなの着てるよねえ?」
皆「それだって!」
俺「顔はないっていうか、見えない?」
皆「みえないよ」
俺「左の髪だけ、肩の前にダラーンと」
皆「だから、そうだよ!」

それは、あまりにもステレオタイプな姿をしていた。
顔はのっぺらぼうというより、朧で見えないという感じ。
質感は無く、パンチしたら(する訳ないが)すり抜けるようなふうだった。
しかし、俺は認めたくなかった。



やっと最終回

「あれは月の影だ」絶対違うと、俺以外の7人。
「そんなに言うなら、お前行ってこい!」とZさん。
「いいですよ」と独りで橋を渡り、階段を登った。
今考えると、もう、この時点で普通じゃないな。

ソレを見ないよう、下を向きながら階段を登る。距離感はわからない。
下からは、皆の戻れ、とか止めろの声。
ある1段を登ったら、もう足が動かない。
行きたいと思うけど次の1歩がどうしても踏み出せない。
それは金縛りとかじゃなく外的要因ではなく、自分の恐怖の限界というか、本能か精神かとにかく、自分がストップをかけた感覚だった。
証拠に逃げ帰る下りはスムースに足が動いた。

皆の元にもどるとヤンキーAが突然泣き出した。赤髪のヤンキーが。
数時間一緒にいたが、シンナー臭いということもなかったから素なのだろう。
涙を流しながら「なんか、かわいそうになってきた」それは異様な光景だった。
そして、とても冷静に「もう帰ろう」とK子が言い、来た道を引き返す。

俺とK子が最後尾。
「なあ、1人じゃ怖いから、一緒に振り返らない?」と俺が言って、2人で振り返った。
すると、月の影は、今度はまるで我々の返りを見届けるように立っているかのように見えた。

今までの人生であんなモノを見たのは初めてだ。
人に話す時は霊を見たと言っているのだが、俺は今でもあれは8人の恐怖心が月の陰影をそう見せたのだと言い聞かせている。

(完)
長久手ごめんな。

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