二度目、再び

二度目、再び 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

俺の地元は、温泉で有名な所なんだが、そこに1ヶ所だけ、いわくつきというか・・・、
絶対に入ってはいけないとされる温泉がある。

昔、そこでの掘削作業中に事故があったとかで、そこで起った話を。

当時、都会の大学に通っていた俺は、某県の田舎の実家に帰り、集落に残って農家を継いでいたA、地元の大学に進み、同じく帰省していたB、と再会した。
小学校時代からの幼馴染だった俺らは、20歳を越えてから初めて会うこともあって、酒も入り、夜中まで騒ぎまくった。

午前2時を回り、さすがにトーンダウンし、
「そろそろ解散するか」
と言い始めた頃、突然、俺の頭の中に、例の温泉のことが思い浮かんだ。

何故だかは分からない。
小学生の頃にAの言い出しっぺで一度だけ、3人でその温泉の近くまでは行ったことはあった。

入ろうとしたところを、たまたま山道をトラックで降りてきたおっさんに見つかって怒鳴られた。
その場でトラックに乗せられ、
「あそこは入っちゃいかんだろうと親から教わらなかったか!」
と何度も怒鳴られた。

山を降りると電話で親を呼ばれ、お袋が引き取りに来た。
もちろん家に帰った後も、親父と一緒になって散々叱られるのだが、どうしても納得出来なかった俺は、その晩、寝る時お袋に、
「大人になったら入ってもいいの?」
と聞いた。

お袋は、
「あんたが大学に行くくらい大きくなったらね」
とだけ言った。

もちろん、寝る前に発した冗談だったのだろうが、
その一言を俺は何故か、忘れることが出来なかった。

ふと、あの温泉に行きたくなった。
あの時のお袋の一言を信じるわけではないが、また3人で昔みたいに冒険したくなった。

帰り際、2人にその話をぶっちゃけると、意外にも承諾してくれた。
2人とも、昔みたいにみんなで冒険したいのだと。
しかもAによれば、今は昔ほどタブーな地ではなくなっているらしく、周囲の山道が整備されたせいか、1年に数回は勘違いした観光客が温泉につかるまでにいかなくても、足を踏み入れてしまうらしい。

もちろん彼らの身には、特に何も起っていない。
地元の連合がしつこく電話して確認している。
ただ、今から行くのは流石に気が引けるので、3日後の昼間に行くことで、2人とその晩は別れた。

出発当日、俺たちはその温泉がある山に足を踏み入れた。
山道をアスファルト道に整備する過程で、木をだいぶ伐採したのか、小学生の頃よりは、日光が入ってくるようになっていた。
暗さからくる怖さは、ずいぶんと安らいでいる。
2kmほど歩くと、例の温泉に入る山道が見えてきた。

山道の入り口の、
「この先、危険、入るな」
という木の立て看板を無視し、ずんずんとその山道を歩く俺たち3人。

○○温泉と消えかかった文字で書かれた木の看板が見えると、ようやく脱衣場になるよう造ったであろうスペースに到着した。
かなり昔のものだがら、蜘蛛の巣が張ってるわ、足場は悪いわで、もう無茶苦茶だった。

だが、肝心の温泉はちゃんと湧いており、ぎりぎり奥が見えるかどうかの透明感がある。
ただ、管理されていないだけあって、温度は50℃から60℃だろうか。
相当熱かった。
流石に入浴するのは無理なので、足湯だけで済ますことにした。

足湯でくつろいでいる途中、一番、この温泉の歴史や怪奇現象に詳しいAが、色々と話してくれた。
その昔、この町が温泉バブルに沸き、いい湯が湧き出てるとされるこの地も、整備しようという話になったようだ。
整備は順調だったが、ある日、掘削機器の不備による事故で、かなりの死傷者が出たこと。
その後、作業を再開し、なんとか完成にこぎつけたものの、作業中は怪我人や体調不良になる者、怪しい人影などを見た者が多発し散々だったこと。

完成し、営業を始めたはいいものの、怪奇現象が多発したこと。
入浴していると、いきなり湯の中から足を掴まれる。

いきなり作業着を着たおっさんが入ってきて、
そのおっさんと目が合うと、のぼせ気味になり失神する。

いきなりお湯の温度が上がり、湯船から出ようとするも、金縛りに遭ったように動けず、大やけどを負う。

髪を洗っていると、肩に誰かの手の感覚。
だが、振り向くと誰もいない。

などなど・・・。

結局、重傷を負う人も出てきたので、町が強引に閉鎖させたらしい。

だが俺たちがいる間は、そのような現象も起らず、
「もう事故から何十年も経っているから、祟りも薄まってきてるんだろうなぁ」
ということで、笑いながらその温泉を後にした。

しかしその晩、俺が家の風呂に入ってる時から、事態はおかしくなっていく。
その晩、いつも通りに風呂に入ってくつろいでいた俺。
髪を洗おうと、シャンプーを頭の上に泡立てていた時だった。
頭の上で増えていく泡に、違和感を感じた。
明らかに手の平の上に取ったシャンプーの量に比べて、泡立ちすぎなのだ。
「よく泡立つシャンプーにでも変えたのかな」
と俺が思っているうちに、泡は異常な速度で増えていく。
異常を認識し、目を開けた瞬間、風呂中に泡立った泡が、俺の顔を覆い尽くしてしまった。
いざ泡に囲まれてみると分かるが、圧迫感が凄く、息が出来なくなってしまうのだ。
泡一面の中、なんとかドアに手を掛けようとするも、目がやられてしまい、なかなか手が届かない。
やっとのことで手が届いたものの、今度はドアが動かない。
家の風呂のドアには、鍵など付いてないというのに。

完全に手詰まりになり、命の危険を感じ始めた俺は、必死に親父やお袋のことを叫び始めた。
そして足をバタつかせ、なんとか自力でもドアを開けようと試みる。

その時、誰かが俺の足を掴み、ドアとは反対側の方向へ引っ張り始めた。
「冷たい手だ」
「間違いなく風呂の中に、誰か他にいる」
家の風呂は、俺がギリギリ横になれるくらいの広さしかないのだが、その時は長い間、足を掴まれ引きずられた記憶がある。
その手の主は、俺をどこに連れて行こうとしていたのか。

数秒後、叫び声を聞いて駆けつけた親父によって、失神している俺が救出された。
ただ、現場を見たはずの親父によれば、大量の泡なんて全くなかったし、もちろん風呂の中には誰もいなかった。
俺がそこに失神していただけ、ということだった。

約1時間後、意識を取り戻した俺は、これは間違いなく、あの温泉の祟りだと確信した。
すぐにAとBに連絡を取り、Aとは連絡がついたが、B宅に電話を掛けると、とんでもないことになっていた。
電話に出たBの妹が言うには、Bが風呂で滑って転び、ドアの縁の部分に頭を強く打ちつけ、意識がないのだということ。

すぐに2人で病院に行き、一晩中を病院で過ごしたものの、結局、Bの意識は戻らなかった。
次の日の夜、Bは死んだ。
昼間には俺たちの問いかけに反応するまで回復したのだが、夜になって容態が急変し、そのまま亡くなった。

Aに俺の経験したことを報告し、これは間違いなく祟りだろうと伝えた。
Aは昨日の晩、風呂に入る前に俺から電話がかかってきて助かっていたが、祟りだろうという認識は一致した。
しかも、AはBの妹から、とんでもないことを聞いていた。
Bは、あの温泉に行って足湯につかった時、何者かに足を掴まれていたという。
Bは俺らを不安に思わせないよう、黙っていたのだろうか。
Aと俺は、強く責任を感じた。

タブーではなくなっているというデマを教えてしまったA。
そもそも、最初に行こうと言い出した俺。
結局、それで一番関係のないBを巻き込み、死なせてしまったのだ。
Bの家族にこのことを伝えたら、どんな顔をするだろう。
Aと俺は、しかるべき時が来るまで黙っていようと一致した。

しかし、Bの妹が誰かに言いふらかしたのか、Bが例の温泉の祟りで死んだということは、田舎のこの町に噂として、あっという間に広がった。
もちろんそれは、あの日、俺が風呂で失神していたのを救出した、俺の両親の耳にも入ることになった。
しつこく問い詰められた俺は、ついに、あの日3人で例の温泉に行ったことを白状することになった。

すぐに、Aの家族、Bの家族と俺の家族、地元の温泉連合の人たちが集まることとなった。
Bの母親は、俺とAを白い目で見つめていた。
連合会長の爺さんに、会合が始まるや否や、
「ったく、お前は、あれほど立ち入るなと言ったのに!」
と怒鳴られた。
連合の人たちから、
「あの温泉の怨念は、弱まるどころか年々高まっており、観光客が立ち入ってしまうのもそのためだ。
立ち入った観光客は、何者かに引き寄せられるかのようにあの温泉に入ってしまったと、皆話している」
と聞かされた。

そして、あの温泉の名は、こちらの地方の古い方言で、
「二度目、再び」
という意味であり、祟りも二度、あの温泉に立ち寄ったものに降り注ぐというのだという。
会長さんは、
「Bは一度目か二度目かは知らないが、何かあの温泉の霊たちにとって、気分を害することをしてしまったのかも知れない」
と言った。

さらに、Bのお袋さんからも、とんでもないことを聞かされた。
小さい頃、俺らが温泉に入ろうとしたところに、たまたま通りかかった、俺らを連れ戻したトラックに乗ったおっさん。
あの人は、てっきり地元の人だと思っていたが、Bのお袋によれば、あんな人は見たことなく、当時、AとBの母親も、不審に思っていたという。

そして、連合の人に相談し、もしやと思い、例の温泉の事故によって亡くなった人の写真を見ていくと、おっさんとよく似た人物がいたのだとか。
「あの温泉に立ち入るなと、わざわざ警告してくれた・・・。それなのに・・・」
Bのお袋は泣き崩れた。
連合の人によれば、
「この地から、なるべく離れること。お祓いされた桶を渡すから、それを風呂場だけではなく、事故の危険がある水場の近くに行く時は、なるべく持ち歩くことが祟りを絶つ方法」
だと教わった。

俺と両親は、この地を離れる覚悟をした。
これが大体の経緯です。

Aも、あの土地を離れようとしたのですが、両親から、
「代々農家として暮らしてきた私たちも、あんたも、都会に出て暮らせるわけがない」
と猛反発を受け、結局、残ることになってしまいました。

それからは、周りからの避けるような視線、Bを死なせてしまったことへの責任感、色々なものが積もっていたのでしょう。
数回、その土地から離れたところでAと会ったのですが、その苦悩はよく分かりました。
自分も、AだけにB死亡の事故の責任を取らせまいと、
必死に励ましたのですが、Aは昔から悩みを自分だけで抱え込みやすいタイプなので、なかなか事態はいい方向へ進展しませんでした。

Aが、このままではどうにかなってしまうのではないか、と思っていたのですが、ちょうど就職活動で多忙なこともあり、結局、最後の1年は、Aとは会えずじまいでした。

Aが自殺した・・・と連絡を受けたのは、なんとか就職も決まり、もう一度Aと会おうとしていた矢先のことでした。
もちろん葬式には出させてもらえなかったので、断片的にしか情報がありませんが、風呂の中でリストカットし、死亡していたとのことでした。

その場にお祓いされていた桶があったかどうかは分かりません。
ただ、A自身の意思で自殺という選択肢を選んだとすれば、
それはもはや、祟りとは関係なくなってしまいます。
何者かに引き寄せられるように風呂場での死を選んだとしたら・・・。
やはり、祟りということになってしまいます。

死亡に至る経緯はどうあれ、結局、自分は2人の親友を亡くしてしまいました。
この事件のきっかけを作ったのは自分です。
そして、Bがその煽りを食らった形になって死にました。
自分だけが逃げることが出来る立場なのをいいことに、Aを放置して、結局Aまでも死なせてしまいました。
桶のおかげか、今でも周りに不可解な現象はあまり起きません。
しかし最近になって、自分は、もはや○○温泉の霊よりも、AとBの2人に祟られているような気がしてきました。

今でも、あの温泉はあるのでしょうか。
自分にはよく分かりません。

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