本土の漁村の沖には島があり、そこにも人が住んでいました。
比較的大きな島で、全体に集落が五つほどありました。
その島の最も大きな集落に、ある日、托鉢の僧侶がやって来ました。
初老で痩せた彼は、静かに家の前に立って経を唱えます。
なにがしかの施しをする者もいましたし、無視する者もいました。
彼は、無視されたら静かにその家の前を立退き、次の家にいって経を唱えながら立つのです。
そうして集落で一軒一軒まわって、次の集落に徒歩で向かいます。
十日ほど見かけられましたが、その後、姿を消しました。
ああ、船で本土に帰ったのだな、と皆思ったそうです。
直後、島のAさん(男)が死にました。
年寄りでもなく元気だったのに急に熱をだして死んだ。
それから1年経って、またその旅の僧侶が島にやって来ました。
一年前と同様に、島の集落を一戸一づつ回りました。
すでに秋口になっていました。
彼が去ると、今度はBさんが死にました。
Aさんとは別の集落の人です。
村人たちに噂がたち始めました。
「あの坊さんは、どこからやってくるのだろう?」
各集落の人が会って話をしても、だれもその僧侶を船に乗せてきたものがいないのです。
さらに、彼らはこのようにも考えました。
「あの坊さんが来ると、必ず島のものがだれか一人死ぬ」
三年目に、また僧侶がやって来ました。
島の人々は恐れ、不安が広がりました。
二度あることは三度ある。
また誰かが死ぬのではないか?
一体この僧侶はどうやって島に来て、どうやって帰っていくのか?
島のどこに寝泊まりしているのか?
もうこの僧侶に施しをする者もいませんでした。
家のなかから厳しく
「なにもでないぞ!」
と叫ぶのが常でした。
島の人々は、僧侶の寝泊まりしている場所を探しましたが、どこにもそのような跡はない。
僧侶のあとをつけていく者もいましたが、彼は山の斜面を驚くような速さで登って行き追手を振り切ります。
その後、島の裕福な家の長男が死にました。
島の人々は、本土の村で真剣に僧侶について尋ねました。
だれが島に彼を連れてくるのか?
しかし、どの村でも
「そんな坊さんは見たことがない」
といいます。
何年もそのような僧侶はどこにも来ていなかったのです。