半年ほど前、海外旅行の帰りの飛行機での話なんだが、変なものを見た。
機内が消灯されたあとも、俺は時差あるので起きてようと思って、座席に備え付けのディスプレイで、映画をずっと見てた。
3時間くらいたって、映画見終るころには周りは寝静まってた。
手持ち無沙汰になった俺は、外でも眺めようと思って、窓のブラインドを上げた。
(俺の座席は、登場口より少し後位の窓側の席だった。もちろんエコノミー)
そうしたら、変なものが見えた。
棒というか箱みたいな黒いものが、機外の前の席らへんにはえて(?)た。
外はほんのり明るくなり始めてて、黒いそいつの輪郭がはっきりわかった。
怖いよりもびっくりして、まじまじと見た。
高さは2メートルくらい、幅は60センチくらい。
30秒くらい見てたと思うんだが、もしかしたら見たらまずいかも、と思った。
そしたら、いきなりそいつに手みたいなものが出て来て、ガクンと背が低くなった。
四つん這いになったみたいな感じ。
ちょうど戦隊ものとかのロボットみたいな感じで、カクカクって感じだった。
そして、カクカクしながらこっちに移動してきた。
ここで初めて俺は怖いと思った。
相手がこちらを認識するような何かだと思ったら、パニックになった。
思わず手元の新聞でバシンと窓をたたいてからブラインドを速攻下ろし、隣の席の寝ているおっさんの上をぴょんと飛び越えた。
火事場の馬鹿力なのか、寝ている人間のいる座席を立ち飛びで飛び越えてた。
そのまま通路を走って、機体の最後尾のトイレに駆け込んだ。
飛行機の中じゃ逃げ場がない、というのがひたすら怖かった。
とにかく気が動転してた。
30分くらいトイレにこもってたらノックされた。
FA(添乗員)が、「具合が悪いのか?」って外から声をかけてきた。
俺はさすがに『飛行機の外に変なものがいる』とは言えず、
「大丈夫、ちょっと気分が悪いだけ」と言って個室を出た。
そして、おそるおそるFAのあとに付いて席まで戻った。
もちろん、黒いのは機内にはいなかった。
でももう外を覗くのが怖くて、ブラインドは下ろしたままにした。
成田に着くころには、俺も何かの見間違いだったんだろうと思うようになってた。
でも飛行機から出る通路みたいなところで、気になって自分の席のあたりを見たら、何か黄色っぽい油みたいなものが、なすりつけられたみたいになってた。
やっぱり何かいたんだと思って、血の気が引いた。
乗客の見送りに出てたFAに、あのときトイレに来てくれた人がいたので、
「あれは何?」って訊いたみたけど、「わからない」と言われた。
「良い旅を。ミスター・ニンジャ」と、そのFAは小さくぴょんと跳ねる仕草をしてくれた。
おっさんを飛び越えたのを見てたらしい。
(だからトイレまできてくれたんだろうけど)
俺はなんとか作り笑いで、「ニンジャは内緒にしといてくれ」って言って飛行機を降りた。
結局それきりで、何だったのか判らない。
どこか途中のよその国に落ちててくれと祈ってる。
書いてみるとあんまり怖くないけど、そのときは本当にパニックだったな。