瓶コーラ

瓶コーラ 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

あんまり怖くは無いかもしれないけど、俺の体験談を上げておく。

俺は、プールや川では泳げる。
だが、海では泳げない。
これは、海嫌いな俺が、一昨年の夏、海に行った時の話。

海で泳げない理由は、俺が小さい頃にさかのぼる。
小学生の夏休み、この海で溺れたことがあった。
そして、一緒に泳いでいたAも溺れてしまった。

俺は助かったが、Aは死んでしまった。
Aは俺の親友だった。

情けない話だが、俺は必死すぎてその時の記憶が無い。
近くで泳いでいた大人が、俺たちを岸まで運んでくれたようだが、それ以来、俺は海で泳げなくなってしまった。

溺れてからの数年は、プールにも入りたがらないほど水嫌いになってしまったので、それから比べると少しは水嫌いを克服したのだが、それでもやっぱり、海では泳ぐことが出来ない。

でも、俺が海で泳げなくなった理由は、隣に居たAが死んでしまったからではない。
俺とAが岸に引き揚げられて病院に運ばれて処置が終わった後、
医者も看護師も揃って首をかしげていたらしい。

なぜなら、俺とAの足首には、揃って、誰かに握られたようなアザがついていたのだ。
しかも両足に。

普通は警察沙汰になるところだが、パニックになった俺たち2人が、片方が沈もうとしては、もう片方の足をつかんで浮き上がる、という行為を行った結果、アザがついたのだろうと言う結論に至った。
しかしそれ以来、俺は、得体のしれない恐怖で、海で泳げなくなってしまった。

…俺は、それから夏になると毎年、この海で死んだAを弔うために、ここに来ているのだ。
もう大人になった俺は、車を運転して、一昨年も例年通り弔いに行って来た。

この海は、家から少し距離はあるが、地元でも知る人ぞ知る穴場のような海だ。
俺が海に着くと、まさに真夏の海と言う感じで、照りつける太陽。灼熱の浜辺。
だが、人影がほとんど見えない。
この時期になると徐々にクラゲが出てくるから、もう泳ごうとはしないのか。

俺は浜辺に座り、Aを思い出しながら、今となっては絶滅危惧種の、当時好物だった瓶コーラの栓を2本開けた。
1本は俺に。そしてもう1本は、Aに。

Aとの思い出は、年を経るにつれて少しずつ薄れてきているけど、それでも、彼女と遊んだ時間はかけがえのないものだった。

それから10分ほどしたころだったろうか。
視界の少し端の方に、何か動くものが映った。
見てみると、ほんの少し沖の方で、水面が激しく動き、水しぶきが立っている。

誰かが溺れている!!
そう確信した俺は、服を脱ぎ、下着1枚で海に飛び込んだ。
俺は、なぜか恐怖心は無かった。
あれほど、海で泳ぐことを嫌がっていたのに?

溺れている人のところまで、到達できる自信も無かった。
間に合う確証など、どこにもなかった。

だが、海で溺れることよりも、目の前で1人の命が失われようとしている。
あの時、俺は子供で、Aが溺れているのに、自分も横で溺れるだけで何も出来なかった。
これ以上、失いたくはない。

どう泳いだのかも良く覚えていない。
必死に泳ぎ続け、溺れている人のところに近づいた。
しかし、あと少しと言うところで、もがいていた腕が水面から姿を消した。

まずい!沈んだ!
そう思った瞬間、何かに足をつかまれる感覚があった。
そして、俺は海中へ沈んでしまった。

海の中では、俺の左足を何者かが掴んでいた。
海中で、そこまで鮮明には見えないが、少なくとも、生きている人では無いということは確信できた。

そいつは長髪でロングスカート(ワンピース?)を着ていた。
この服装で、沖まで海水浴などあろうはずもない。
その女は、何やら気味の悪い顔で笑っているようだ。

右足で蹴ったりして、必死に振り払おうとするも、女は俺の脚を離さない。
俺の息も続かなくなり、目の前に、徐々に死が広がってくるのが分かった。

もう、駄目だ…
その刹那、誰かが俺の腕を掴んだ気がした。

横を見ると、そこにはAが居た。
当時と同じ水着姿で、両手で俺の腕を掴んでいる。

Aは、にっこり笑っていた。
今、俺の左足を掴んでいる女とは、少し違った笑顔だ。
あの時の、俺と遊んでいたときの笑顔だ。

あぁ、A。お前か。
お前もだったのか。
最期に、会えてよかった…

そう思った瞬間、俺の体は海面へと浮き上がり、眩しい太陽の下に晒された。
もう、足を掴まれている感触は無い。
Aの姿も、見えない。
空気を肺いっぱいに吸い込み、俺はまだ生きているという感覚に不意に陥った。
何故か、泣いていた。

そして俺は、自力で浜辺まで泳ぎ着いた。
浜辺に上がってみると、掴まれていた左足、そして、Aが掴んでくれていた腕にも、アザがついていた。

俺を助けてくれたのか…
Aに感謝しつつ、もう家に帰ろうと、浜辺に挿していた瓶コーラを見てみると、Aの分のコーラが半分くらい減っていた。

また来るよ、A。

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