タイ式マッサージ店

タイ式マッサージ店 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

他人に話して怖いか怖くないか正直わからないがここ最近体験した、少し怖くて不可解な話をさせて欲しい。
少し長くなるので、時間がある人は読んで欲しい。
俺はマッサージ、その中でもタイ古式マッサージが好きで疲れが溜まったり、スッキリしたいと思うと、よく足を運んでいた。
行った事ない人にどういったものか説明すると、指圧と言うよりストレッチに近いマッサージだと思って欲しい。
二人一組でやるパートナーストレッチみたいなものだ。
加えて特徴としては、熟年のタイ人女性が施術師である事がほとんどで多くの場合、「抜き」が付いている事が多い。
当然マッサージとしては割高ではあるが、身体の疲れと共に性欲も解消出来るのが肝だ。

話は脱線してしまったが、その日も俺は総武線O駅近辺のタイ古式マッサージ店へ行くべく、足を向かわせていた。
(新宿駅に程近いO駅は激安タイ古式店の激戦区だったりする)
気分的に既存店を試すより新規店を開拓したい気持ちが強く、今まで行ったことのない、駅に程近い雑居ビルの店舗に入ることにした。
中はこの手の店舗にありがちな薄暗さと、心無しかキツいお香の匂いがした。
他に印象に残っているものとしたら、その手の像の多さだ。
タイ人のほとんどは熱心な仏教徒で、当然タイ古式マッサージの店も宗教的な趣向のある店舗が多い。
ただその店は特に(詳しくはよく知らないが)仏教の神々を象る像が多く感じた。
……異国情緒というよりは少し不気味に感じるくらいに。

「キョウハナンフンコースニシマスカ」
たどたどしい日本語で会話をするタイ人女性。
目はくりっとしていて、肌は自然なこげ茶色。
この手の店にしては少し若い以外、極めてふつーの女の子だった。
俺は女の子の若さに少し胸を高鳴らせつつ、120分のコースを選択した。

タイ人女性は少し思案した後
「マッサージノアト、アサマデカミンシテキマスカ?」
終電を逃すことを考えてくれたのだろう。

タイ古式マッサージ店では、こういった有難い申し出も珍しくない。それだけ寛容なのだ。
時間的に終電ギリギリであったし、週末で疲れも溜まってた事もあり、俺はその申し出を受けた。
マッサージの内容は特に書く事がないくらい、ふつーなものだった。
最初は健全を装い、徐々に下半身のタッチが増え、最後は手で抜いてもらう。
いつもの流れだけれど、不満は残らないようなクオリティだった。

「コレデオワリデス。ユックリヤスンデイッテクダサイ」
タイ人女性が頭を下げ、部屋を出て行く。

俺は大きく伸びをして、疲れが取れて逆に気怠くなった身体で横になった。
すぐにまどろんで、眠りに落ちて行く。
タイ古式の後の疲労感は本当に気持ちが良い。

しばらくして目が覚めた。
何か物音がしたわけでもなく、フッと目が覚めた。
……今思うとその時間(空間?)が異常だったんだと思う。

「オニイサン、ナカハイッテイイデスカ」

目が起きてすぐ部屋(正確に言うとカーテンの外)から声がした。
さっきの人とは違う声。抑揚がなく無機質な声音だった。
ただ不思議とどこかで聞いたことあるような声でもあった。
目を開けると、部屋の中はさっきまでいた部屋とは思えないほど、暗くなっている。
自分が目を開けているか、閉じているかわからなくなるような暗さだ。
(寝る事に配慮してくれたのかな)
何で部屋に入ってくるのか、イマイチよくわからなかったが、またマッサージをしてくれる分には、悪い話じゃない。

「どうぞ」
俺は快く受け入れることにした。

「アリガトウ。オニイサン、●◯×?」
「え?もう一回言ってよ」

最後の方が聞き取れず、思わず聞き返してしまう。
タイ語なのか、何なのか今まで聞いたことのない言葉だった。

「●◯×?」
「だからわからないって!」
「●◯×?」
「いいから早くするならしてよ」

何度聞いても分かり易く話してくれない。
眠気も相まって、つい少し声を荒げてしまう。

「……ソウ、ソウ。アリガトウ」

抑揚のない声が気のせいか少し笑った気がした。
声を荒げてる相手に笑うって、、少し不気味に感じた。
でも半分寝ているような頭では、そこから突っかかる気にはなれなかった。
不意に冷たい手が俺の背中に触れた。
マッサージが始まるのか、とボンヤリと思い始めたら、気付いたら意識が飛んでいた。

その日はそれで終わりだった。
次に目が覚めたら始発が始まっている時間で、俺はいそいそと帰宅した。
多少不気味に感じてはいたが、店員に夜中の話をするのもやめた。
寝ぼけてただけの可能性も、その時は大いにあるように思っていたし。

次にソレと会ったのは、仕事で遅く帰宅した、たぶん金曜日だったと思う。
疲れた身体を癒しにタイ古式に足を運ぼうかとも思ったが、この間の不可解な体験もあって足が向かわなかった。
シャワーを浴び布団に入り、目を瞑ったら一瞬で眠りに落ちたのを、なんとなく覚えている。

夜中に目が覚めた。
俺は眠りが深い方で、特に家で寝る時はほとんど朝まで起きる事はない。
しかも今日は殊更疲れているわけで。だからこの時点で俺は嫌な予感がしていた。
部屋は真っ暗だった。
レースのカーテンからも、普段さしているような光はなく。
あの時と同じ真っ暗闇だった。

「オニイサン、●◯×?」

あの時と同じ声がした。玄関の方からだ。

「●◯×?」

この間と同じ単語を、男とも女とも取れる無機質な言葉で投げかけてくる。

「●◯×?」

今日は自宅にいるはずだった。
疲れてまっすぐ帰ったのも覚えている。
なのに何でソレがいるのか。
訳がわからず、訳がわからないだけにめちゃくちゃ怖くなってくる。

「オニイサン?」

心なしか声が近づいている気がする。
あの声に答えたらどうなるのか。この間のように朝を迎えられるのか。
それとも……正直どうなるか全く想像がつかない。
(そうだ、スマホ!)
俺は手探りでスマホを探す。
自宅で寝ている時、大抵は枕元にあるはずで。
(おし!)
スマホを見つけ、俺は強く握りしめる。
外部への連絡、ライトによる暗闇の打破。急に心強くなってくる。

「●◯×?」

更に声との距離は近くなる。
もはや一刻の猶予もないだろう。
だが、アレが玄関の方向にいる限り、正面突破は出来きない。
だったら、窓から外に出る他なかった。
スマホの明かりをつけ、俺は鍵を開けるため背後の窓を照らす。
そこで俺は信じられないモノを見ちまった。一瞬だったから今でも見間違いと思いたい。
焦る俺の背後には、口が避けるほどに満面の笑みを浮かべた俺が、真っ暗な窓に映っていた。

その後の事はぼんやりとしか覚えていない。
めちゃくちゃ走って、近所のイートインのあるコンビニに転がり込んで、夜を明かした。
寝てしまったら、またアイツに会ってしまうような気がして、うとうとする事も出来なかった。
すぐに引っ越すわけにも行かず、今は人気の多い満喫や温浴施設で夜を過ごすようにしている。
不便はしているが、今のところ再度アイツに出くわすことにはなっていない。
ただ昨日非通知の電話があったんだ。その電話は一言だけの非常に短いものだった。

『●◯×?』

それでようやく気が付いた。
ずっと聞いてたあの声はありえない事に俺の声だった。
でも、アイツは断じて俺ではなく、得体の知れないナニカなんだ。
と、何だか正体わからず、今に至る。

お祓いとかそういうのにはあまり詳しくないけど、そろそろ色々と限界なので何とかしようとは思っています。

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