大きな顔

大きな顔 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

会社で怖い体験をした時の話と、霊感がある上司の伊藤さん(仮名)の事。
専門学校を卒業して初めて就職した会社で、今から8年くらい前の事になる。

そこは少し個性的なアパレルの会社で、やっぱり個性的な人も多くて、オカルト系が好きな人も何人かいた。
会社の裏側が墓地だという事もあって、社内で幽霊を見たと言う人も結構いたが、私の直属上司の一人の伊藤さんがかなり霊感が強いとの噂があった。

私は専門学校の頃、自称霊感強の先輩に「○○ちゃん霊感あるね~」とよく言われていたが、それまで幽霊の類は見たことがなかったのもあり、先輩の冗談や嘘だと思っていた。
しかし、上司の伊藤さんにも「○○ちゃん、霊感ある人だよね?」といきなり言われて驚いた。
私はオカルト系も嫌いでは無かったので、入社してからは伊藤さんと暇な時は怖い話をしたり、社内の幽霊目撃スポットの話をしたりしていたが、やっぱり自分で見たことは一度もなかった。

そして、入社してから3ヶ月くらいした日の事。
私は資料を取りに、階段脇のギャラリーに一人で向かった。
ギャラリーといっても、後で増設された螺旋っぽい造りの階段の壁が本棚になっているだけのスペースで、照明も人感知でつくスポットライトが数個あるだけの小さなもの。
窓も無く、昼でも暗くて、社内でも出そうな場所とよく聞く場所だった。
なので、少し怖いのと好奇心からドキドキしていたのは覚えている。

階段を3段くらい上ると、一番下の感知ライトがついたので怖さはなくなり、壁面の本棚から資料を探しながら上って行くと、いきなり何かにぶつかった。
反射的に「あ、すみません」と言ってしまったが、自分のいる階段から上のライトがついていないから『人ではない?』とゾクッとした瞬間、私の動きを感知したライトがつき、ぶつかった何かを照らした。

見えたのは本当に一瞬だったが、階段の幅いっぱいに青白い壁のようなものが広がっていた。
イメージはまさにぬりかべのようなもの。
ソレはライトがついて消えてしまったが、確かに私は正体不明なものを見た。
私は興奮して、すぐさま伊藤さんに報告に行った。

よく目撃情報がある会社なので、伊藤さんの周りにいた人は「えぇ~怖い~」や、「ぬりかべなら見てみたい~」などの反応だった。
そんな中、伊藤さんだけが少し真面目な顔をして、「○○ちゃん、目は悪かったんだね」とぽつりと言った。
「え?何ですか?」と聞いても、苦笑いをするだけで答えてくれなかった。
私は少し怖くなり、帰り際に伊藤さんにもう一度聞いてみた。

「さっきの目が悪いってなんですか?」

すると伊藤さんは「あ~あれね」と、やはり苦笑いをしてから話してくれた。

「あそこね、大きな顔が出るんだよ」

それ以来、私は一人でギャラリーに行けなくなった。
伊藤さん曰く、霊感がある人でも視る力が強い人や感じる力が強い人など色々あるらしく、私は視る力が弱かったのでボヤけてぬりかべになっていたのかもね、との事だった。

伊藤さんと仕事をしていた期間はわりとこういった事があったが、これが一番印象に残った体験だった。

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