イビナ

イビナ 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

田舎に祖母の家があり、幼い私は夏休みなので母親とそこへ遊びに行っていた。

うとうとしていた私がふと目を覚ますと、母親が皿を片手に目の前に立っていた。
母は無表情で皿を差し出して、「白菜を甘く煮たやつ(当時の私の好物だった)だよ」と言う。
でも皿の上のはどう見ても白菜じゃなくて、見たことのない野菜。
それにしつけに厳しい母親が、ご飯時でもないのにご飯を食べさせるなんておかしい。
そう思って私は拒否したけれども、いつもと違う母親の様子に負けてそれを食べた。
甘くもなく、野菜特有の臭みもなく、ものすごくみずみずしい。
なんだったんだろうと思いながら、再びごろごろを再開。

しばらくして、今度は玄関で
「すみませーん」
という声が聞こえた。

田舎の家なので、玄関は開けっぱなしで近所の人が入ってくるのも珍しくない。
母親が玄関に向かってお客さんと親しげに話し始めた。
こちらに母親の知り合いもいないのにおかしいなと思いながらも、私は相変わらず横になっていた。

玄関とは少し距離があるが、昔の家なので玄関は広いからよく響く。
玄関と私がいる部屋は、すりガラスでできた引き戸と仕切っているだけ。
私はその引き戸にぴったりくっついてごろごろしていたので、玄関の声がよく聞こえた。

「あれから3年も経ちましたねー、あと3年ですか」
「イビナを甘く煮て食べさせて下さい…」

相手の人がそうしゃべっているのをぼんやりと聞いていた。
その時、母親が何を思ったのか、私のいる部屋に戻ってきた。
手には先ほど食べさせられた野菜を持っていた。
相手の人は話しながら、一緒に部屋に近づいてくる。
ただ、なぜか私のいる部屋には入れないようで、戸口で立って母親に話しかけ続けてる。
その時に、ふと不審なとこに気がついた。

まず、すりガラスのところにいる私に気が付いていない。
(すりガラスなので、入らなくても子供がごろごろしているのは外からでも分かるはず)

もうひとつは、厳しい母親が、挨拶しろ、人前でごろごろするなと怒らない。
(むしろ母親も私のことを無視している)

そして最後だけど、その人がすりガラス越しだけど真っ黒だったこと。
夏場なのに半そででもないし、まず顔の所も真っ黒。
しかもなんか動物の匂いが強い。

母親はその人が入ってこれないことを知ってるのか、椅子に座って何かを始めた。
返事をしなくても相手の人は色々話続けてる。
どんどん話している内容がおかしな方向に進んでいる。

しばらくたってから、急に第三者の声が聞こえた。
二人の声は急に低くなって聞こえづらくなったけど、どうやら第三者が黒い人を説得しているようだった。
しばらくして黒い人は家から出て行った。

それからまたしばらくして、祖母が部屋に入ってきた。

「もう大丈夫だからね、○○さんが対応してくれたから」

と、祖母が母親に言っているのが聞こえた。
その時気がついたんだけど、蝉の鳴く音とかそういう音が今までしてなかった。
祖母が入ってきてから、家の雰囲気が一気に元に戻った感じがした。

長くなりましたけど、私の幼いころの不可解な記憶です。

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