真相を話すと死が伝染する怪奇

真相を話すと死が伝染する怪奇 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

俺が高校2年生の時、クラスメートのM子が他界した。
原因は白血病と言われていた。
彼女の家は千葉県の市川にあり、電車で1時間以上もかけて葬式に出向いた。

俺は、M子とは大して仲が良くなかったこともあり、焼香を済ませると早々と家路についたが、仲が良かった生徒たちの何人かはしばらく残っていたようであった。
クラスは深い悲しみに包まれたが、次第に元の明るさを取り戻し、一女生徒の死はいつの間にか忘れ去られていった。

そして今振り返れば、瞬く間の3年間は過ぎ、俺は高校を卒業した。
もはや俺の頭からは、若くして一生を終えた女性のことはすっかり無くなっていた。

俺はその後、大学生活を経て就職し、それなりに忙しい日々を送っていたが、ある時、高校時代のクラスメートと偶然再開した。
彼女の方から声をかけてきたのであるが、彼女は高校時代からのぽっちゃりした顔からは、想像もできないほど痩せており、声をかけられなければ、たぶん分からなかっただろう。

いや、痩せたというより、やつれたというのが正直な感想であった。
懐かしいね、と軽い挨拶を済ませたあと、折角だから少し話そうということになり、近くの喫茶店へ入った。
現在の状況など、お約束の話を一通り済ませると、
「ねえ、M子のこと覚えている?」
と彼女は訊いてきた。
「M子?ああ、白血病で亡くなったM子ね」
「そうそう」

同時に彼女がM子と仲が良かった生徒であることも思い出した。
「かわいそうだったよね」
「うん、実はね・・・」
彼女は顔を深刻そうにしかめた。
「実は彼女、白血病じゃなかったのよ」
「へー、違う病気だったの?」
俺は彼女の話に、特に興味を示さなかった。
正直に本当の死因を知られたくないようなことは、ままあるからだ。
しかし、俺の気持ちとは裏腹に、彼女は顔をより一層深刻そうにして言った。
「ちょっと聞いて欲しいのよ」
「うん、別に構わないよ」
今日は既に仕事は終っている。
俺は彼女の只ならぬ雰囲気を感じ取った。
彼女の話した内容は、およそ次の通りであった。

一昨年の暮れ、突然M子の母親から連絡があって、
M子の七回忌に来て欲しいと言われた。
是非にと言うので、仲も良かったことだし法事へ参加した。
この法事はM子の七回忌だけでなく、M子の父親の一回忌でもあった。
法事が一段落すると、M子の母親に折り入って話があると言われ、
二人だけで家の一室に入った。
そこは、かつてM子の部屋であった。
少しばかりM子の思い出を語ったあと、母親が意外なことを言い出した。
いわく、M子の死の真相を聞いて欲しいと。
そして母親は話し始めたが、二言三言話した時、緊急の電話が入ったと親族から呼ばれ、
母親は話を中断せざるを得なかった。
再び部屋に戻ってきた母親は、詫びを言ってから話を始めようとしたが、親族の子供が突然ひきつけを起こしてしまい、またもや続きを話すことができなくなった。

結局、その日は時間切れで、話は後日改めてということになった。
彼女はここまで話すと、フッと息をついた。
「時間は大丈夫?」
俺は、いつの間にかM子について、興味が湧き上がっていた。
「大丈夫だよ」
「それから暫くは、M子のお母さんから連絡がなかったの。
こっちから連絡するのも何か気が引けて」
「・・・うん」
俺は相槌を打つのみであった。
「私もそのことは忘れていたんだけど、去年、連絡が来たの。
1年ぶりくらいにね。
それで、またM子の家に行こうとしたのよ」

その後、彼女は次のようなことを話した。
約束した日に彼女は急用が入り、M子の家に行けなくなってしまった。
彼女は電話で話せないかと聞いてみたが、どうしても会って話したいという。
日を改めて、彼女はM子の家に向かった。
そしてM子の母親は、まずこの話から聞いてくれと口を開いた。
実はM子の死は予想外のことで、母親は看取ることができなかったという。
亡くなった旦那さんがM子を看取ったのだが、しばらくして、旦那さんからM子の死因を知って欲しいと言われた。

しかし旦那さんがそれを話そうとすると、ことごとく邪魔が入り、なかなか聞くことが出来なかった。
ついに死因を聞いたのは、旦那さんがそれを喋ろうとしてから実に半年以上も経った後だという。
旦那さんは、その翌日に急死した。
そして、いよいよ本題に移ろうかという時、
来客があった。
無視できない人らしく、母親は暫く応対して、彼女の元に戻ってきた。

この時には彼女も『何かある』と思い始めていた。
母親は彼女の前に座ると、どこまで話しましたっけ?と聞いた。
旦那さんがお亡くなりになったところまでです、と答えると、母親は、あら、そんなところまでお話しましたかしら、と意外な顔をしたのである。
「もう、気味が悪くなっちゃってね・・・」
「それで、話は聞けたの」

彼女は首を振った。
「その後、何故かM子の思い出話になっちゃったのよ。
自分でも訳が分からない。
気がついたら夜になっていて、家に帰った」
「結局、聞けず終い?」
彼女はしばらく沈黙した。
俺は、すっかり冷めたコーヒーを飲み干すと、
「場所変えたほうがいいかな。時間が経ってるし」
と言った。

彼女も賛成し、腹も減ったのでファーストフード店に行くこととなった。
席を立ち会計を済ませ、店を出る。
移動中に俺の携帯が鳴った。
友達が事故に巻き込まれたので至急来て欲しい、という連絡であった。
彼女の話には後ろ髪を引かれたが、現場へと向かうしかない。
彼女は絶対連絡すると言ってくれ、その場を後にした。

友達の事故は大したことはなかった。
2日後、家に彼女から連絡がきた。
「実はね、あの時は言い出せなかったけど、M子のお母さん、あの日の数日前に亡くなったのよ」
「えっ、俺と話したあの日の?」
「そう。そして亡くなる前の日に私、M子の死因を聞いたの。
ついに」
「・・・」
「で、その話、やっぱり聞きたいよね?」

俺は少しばかり躊躇したが、
「確かに聞きたい気持ちはある。でも話すな」
と、きっぱり言った。
「いいか、誰にも話すんじゃない。忘れるんだ」
「ありがとう」

彼女の声は少し安堵したようであった。
「でも、M子の弟にだけは話さなくてはいけないと思う」
「やめておけ、忘れろ」
「でも、たった一人残った、M子の家族よ」
「知らない方がいいこともある。
今度ばかりはその方がいい」
「うん・・・」
彼女との会話はそれで終った。

俺は一抹の不安を隠せなかった。
M子の弟は既に成人であるし、家族の死について、疑問を抱いていてもおかしくない。
俺は彼女に電話をしてみた。
彼女はM子の弟に会ってはいるが、その話はしていないと言った。
俺はくどいほど念を押して電話を切った。

その後も彼女と連絡を取ろうとしたが、携帯を持っていなかった彼女とは連絡が取れなかった。
それから1ヶ月ほどしてからのことである。
彼女の死の知らせがきた。

彼女がM子の弟に、何を伝えたのかは分からない。

★この話の怖さはどうでした?
  • 全然怖くない
  • まぁまぁ怖い
  • 怖い
  • 超絶怖い!
  • 怖くないが面白い