おれの変な記憶の話、聞いてください。小学校1年のときの話です。
当時いちばん仲が良かった友達はY君でした。
学校から帰るといつも、自転車に乗ってY君の家に行きました。
Y君の家までは、かなり遠い。街の外まで出なけりゃならん。
まあ、小さな街ではあるが、1年坊主だしな。結構な距離だったように思う。
街を出ていいかげん走ると、やがて、だだっ広い砂利敷の川原に着く。
そこには、風でトタン屋根が飛ばないように石を載せてあるような、
粗末な小屋がいくつも建っていて、その1つがY君の家。
Y君の家には、セメントだの鉄パイプだの鎖だのドラム缶だのといった、
男のコなら大喜びするなガラクタがいっぱいあった。
たぶんY君のお父さんが、そうい物を使う仕事をしていたのだろう。
Y君のお母さんも、よく覚えている。大きな声でよく笑う人で、
おれたちに混ざって遊び、おれたちを仕切りたがる困った人だ(笑)。
いや、でも楽しかったんだ。川には遊びのネタが、とにかく豊富だったし、
Y君とは本当に気が合ったんだろうと思う。いつも真っ暗になるまで遊んで、
家へ帰ると、心配した母に怒られた。しょっちゅう怒られて、しまいには
「もうY君の所に遊びに行くな」と言われた事までおれは覚えているんだが。
…ところがしかし!おれは1年生の終わりに、転校で遠くに行くハメになる。
その後、Y君と年賀状のやりとりぐらいはしたと思うのだが、覚えていない。
で、十年以上の月日が流れたある日のこと。
(つづく)
257 :きみわるう :02/07/08 19:17 ID:JDAmHlag
(つづき)
偶然に、父親の持ち物から、その小1のころ住んでいた街の地図を発見した。
さっそく母と二人で、「懐かしいねえ」などと言いながら、
記憶を新たにしていたのだが、その時。ふと気付いた。川がないのである。
Y君はいったいどこに住んでいたんだろう?…そう思ったとき、
なぜか背中にゾクリと悪寒が走った。 おれは恐る恐る、母に聞いてみた。
「おれの友達でY君っていたの、覚えてる?」すると母は首をかしげて、
「Y君?いやあ覚えてないねえ…仲良かったの?」と、不思議そうに言った。
…なぜかおれは、この母の反応をぜんぜん意外には思わなかった。
「この近所に川があったような気がするんだけど、なかったっけ?」
と、おれは一応、聞いてみた。予想どおり母は「なかった」と言い切った。
いちばん近くの川まで、バスで30分あったそうだ。
小1の小僧がチャリで通える距離じゃない。
…で、結局Y君のことは謎のままなのですが(笑)、考えてみれば小1の頃、
Y君と遊んだ日々に関するおれの記憶は、気味が悪いほど鮮明です。
鮮明すぎるので、かえって怪しいのです。
しかし、しょっちゅう考えてしまいます。Y君って、誰だったんだろう…
このおれの記憶は、いったい何なのだろう…