もう20年も前の話です。
当時、私は中学生でした。
デカバス(当時は40upですね)をよく釣っていたので、校内の少年バサーの中では、まぁまぁ知られた存在でした。
皆は、野池で20cm前後のバスを釣ってましたが、私は、自分だけの秘密の場所(河川)でデカバスを釣っていました。
その場所に行く為には、深い竹やぶを抜けて行かなければならないのですが、日中でも光が抜けて来ない為、道中は暗く非常に気味が悪いのですが、川まで出れば明るくなるし、何よりデカバスがサイトできるので、いつも我慢して足早に抜けていました。
釣り場は、竹やぶの際で、足場の高さが2m位でオーバーヘッドキャストがなんとかできる広さがありました。
正面の川の中には大きなオニギリ型の青い岩があり、人為的に巻かれたと思われる非常に古いボロボロの縄が巻いてありました。
ある日、私はミスキャストでこの縄にコネリーⅡを引っ掛けてしまい竿を大きく煽った拍子にこの縄をブチ切ってしまいました。
それから1ヶ月位してそのポイントにも他人が入るようになりました。
早い時間に行かないと私自信が其処に入れないため、ある日、思い切って午前4時前後に其処に釣りに行きました。
釣りを開始してからオーバーヘッドキャストで数投していると、振りかぶった時にルアーが必ず後ろの何かに引っ掛かってから出て行く感覚がありました。
気になったので後ろを見ました。
その時、私が見たのは真っ暗な竹やぶでした…引っ掛かるようなものはありませんでした。
「???」
キャストを再開するとまた引っ掛かる…
キャスト時の引っ掛かりに違和感を覚える度に後ろを確認するのですが、見えるのは深い竹やぶの闇…
「何も無い??何に引っ掛かってるの?」
そうこうしている間に空が薄明るくなってきました。
ルアーをスーパーグラブに付け替え1投目!振りかぶった時に
「クッ、クン」
とまた違和感があったので、ルアー回収し後ろを確認する為に振り返ると、ついさっきまで闇だった竹やぶは、数メートル奥まで確認できる明るさになっていました。
竹やぶを直視した時、何故か体が硬直しました。
一気に目が冴え渡り何百と生えている太い竹の1本1本がはっきり見えました。
次に背中から後頭部に寒気がはしり髪の毛が逆立ち、そこから私の体温が郡生している竹の1本1本の隙間に吸い込まれるような感覚に陥りました。
その感覚の直後に私は、ヤバイ者を見たんです。
何百と生えている竹の全ての隙間から何者かが私を見てるんです。
それが、一体何人いるのかと思うくらい…。
手前の竹から奥の竹まであらゆる竹の重なり全ての隙間から何者かが私を見てるんです。
その時、私が精一杯搾り出した声で
「な、何か用ですか?」
と聞くと背後からはっきりと
「はい…」
と返事が聞こえました。
振り返ると、私が縄をブチ切った青い岩がありました。
そして、すぐに竹やぶを見返すともう人の気配は無くなっていました。
その日、私は、釣り人が来るまでの間、そこから動く事が出来ませんでした。
帰るには、その竹やぶを通らないと帰れないので…。
恐怖体験から1時間程、眼前の青い岩、後ろの竹やぶを見る事が出来ずルアーの入った箱の中をジっと見ていました。
ようやく、背後で釣り人がこちらに向かって来ている気配を感じ取り助けを求めようと勇気を出して振り返ると、同じ学校の生徒でした。
彼は、私より1学年下であまり面識がありませんでした。
彼は、私を見て帰ろうとしたので私は慌てて竹やぶに走り込み追いつきました。
すると彼は、
「もう釣らないんですか?」
と尋ねてきたので私は
「釣らないけど、もうここには来ない方がよい」
と教えてあげました。
しかし、詳細を話しては祟られるような気がして喋りませんでした。
無事に彼と竹やぶを抜け家に帰りました。
普段、タックルは部屋まで持って入るのですが、家に入れる事自体が何者かを家に入れてしまう…そんな気がした為、離れの倉庫に放り込みました。
家族にその日の出来事を一部始終話しましたが、
「朝早く出て行くからそういう目にあう!睡眠不足や!」
と一蹴されました。
しかし、気持ちの切り替えが出来ず、隙間が気になって仕方がありませんでした。
その夜、顔を隠すように布団に潜り込み眠りました。
夜中に目が覚めた時に何も見たくなかったからです。
しかし、彼らは私の部屋に来たんです。
案の定、夜中に目が覚めました。
うつ伏せで布団に潜ったままの状態でした。
かすかに聞こえる音がありました。
「サーカサカサ…ギー」
風で笹がかすれ、竹がキシむ音…。
「?…竹やぶ…?」
私は、直感しました…。
「今、あの竹やぶの中に居る…。間違いない…」
そして、布団に隙間が無い様に内側を強く握り、布団を体に引きつけました。
暫くすると布団の外に無数の気配を感じはじめました。
すごく怖い…。
「絶対に布団からは出ないぞ」
と心の中で叫んだ次の瞬間、私の足の先から複数の手が布団をゆっくり押さえ付けてきました。
あまり強くない力でゆっくりとゆっくりと私の体の形が布団に浮き出るように押さえつけてきました。
複数の手は、軽い力で一箇所を3,4回押さえながら、爪先からふくらはぎ、おしり、背中と上がって来ます。
そして、ゆっくりと包むように両肩を
「グウゥゥ」
と押さえられた時、私は、両手で掴んだ布団を額にあてて
「ごめんなさい!ごめんなさい!縄は直しますから…ごめんなさい!」
と謝りました。
すると押さえてくる手の感覚がなくなりました。
「クックン…クン、クン」
「??…?!」
顔周辺の布団を引っ張ってきました。
この感覚には、覚えがありました。私がキャスト時、振りかぶった時に感じていた違和感とそっくりでした。
押さえていた布団をつまむように引っ張り背中、おしり、ふくらはぎ、爪先と複数の手が下がっていきました。
朝まで眠る事が出来ず、布団の中で朝の気配を待ちました。
恐怖の為、布団から出て時間を確認する事が出来なかったので、夜明けまでの時間がすごく長く感じました。
父親の部屋のドアが開く音が聞こえたので思い切って布団から顔をだしました。
すると、部屋の入り口に私のバスロッドが立てかけられているのが見えました。
思わず
「あ~!」
「おあ~!」
と声を出したので父親が異変に気づき部屋に入ってきました。
私が「竿がある」と言うと父親が「自分が持ってきた」と言ったので
「何でもって来るんだよー!倉庫に置いてただろー!」
と泣きながらお前のせいだと言わんばかりに昨夜の事を父に訴えました。
父がその場所を見てくると言ってくれたので安心しました。
半日位たって、父が帰宅すると「う~ん縄みたいなのは無いなぁ」と言いました。
竹やぶを管理している方に父が岩の事を聞くと、遥か昔、(弘法大師とかの時代は)その岩のある辺りは、陸地でして神社がありお神様を祭っていたらしいです。
周りより少し高い位置にあった為、その時代から洪水がある度にその川周辺に住まわされていた方の避難場所になっていたらしいです。
時代が進むに連れて川の流れが変わり流されたのか移されたのか岩だけが残ったようです。
縄については、知らないみたいでした。
話を聞いた事で、少し落ち着きましたが、相変わらず隙間を直視できず家の中でもキョロキョロしていました。
また、夜が来ました。
とりあえず、父親の部屋で寝ることになったので割と安心して眠りました。
夜中に目が覚めたので父親が居ることを確認し、改めて安心したのですが、数秒後に体が硬直して耳鳴りが始まりました。
「キーン」という音が2,3秒で次第に大きくなり「ゴー」という音に変わりました。
目は、開いたままなのに動かす事ができず、父を確認できませんでした。
私の目には天上からぶら下がっている蛍光灯(昔タイプの和室にあったやつ)とそこから垂れ下がる紐のスイッチだけが見えていました。
そのうち「ゴー」という音が最高潮に高まって消えました。
無音になった瞬間、見えていた蛍光灯に変化が起こりました。
蛍光灯があの岩に変わり、紐が縄に変わって私の方に波打っていました。
そして私の両腕が勝手に上がりその縄を掴もうとするのですが届きません。
その時、私にはすべてが見えて理解できたんです。
洪水の中、あの神社は中洲状態になっていました。
大勢の人(書き方が難しいんですが、たぶん虐げられていた方)が山手に行くことを許されず、その神社に大勢押し寄せるんです。
スペースにも限度がある為、全員が中洲に上がりきる事ができない為、岩に太い縄を巻きつけて流されないようにその縄に人々が捕まっているんです。
その光景を竹の間から大勢の野次馬がニヤニヤと笑い見ていました。
「覗いていたのはオマエらか!」
「そろいもそろって人の命を笑う奴等が…」
どういう相手かが解った途端、怖さが一転して血が沸騰する位の怒りが込み上げてきて
「オラー!!」
と体を無理やり起こし蛍光灯の紐を掴み電灯を付ける事が出来ました。
その瞬間、熱い汗が噴き出して体が非常に軽くなりました。
翌朝、父に昨日の出来事を話しました。
結構、話を真剣に聞いてくれました。
神社に関係しているのは間違いないだろうと言う事で御祓いをしてもらう事になりました。
そして、○○さん(あえて伏せます)と言われている所へ行きました。
何でもその神様の処には、全国の神様が集まるらしいので、多分その神様も来られるだろうと言う事で、そこが良いだろうと言う事になりました。
そして、祈祷をしてもらいました。
帰る時に、家には結界を張るための「○○」(忘れました)、私の部屋には「木札」、私の体には指輪(不謹慎ですが、それなりの感じの…)を頂きました。
それ以後は、たま~に私や兄が1階に居る時に2階から「ド~ン!」と家中に響くような音がする位で(兄は頻繁に聞いているが全く相手にしない)身体的に異変があったり、家に不幸があったりはしておりません。
そう言えば、布団を押さえられた時に「縄を戻しますから…」と言ったのに未だに戻しておりません。
良い様に考えるなら、私に当時の無念を知って欲しかった事とそれを見た私が本気で怒ったので成仏してくれたのかもしれません。
そうだとすると、私が怒った時点で彼らは去っていたのかもしれません。
お祓いの効果は不明ですが、私が結婚し家を出ているにも関わらず、父は、今でも部屋に入れる木札を毎年持って来てくれています。
家族には感謝です。