仕事で仲間と二人、山に入っていた夜のことだ。
焚き火を挟んで座り談笑していたのだが、不意に相手が黙り込んだ。
「おい、どうした?」
尋ねてみても、連れは上の方を見上げたまま返事をしない。
何だよ感じ悪いなぁと思いながら、煙草に火を点けて深く吸い込んだ。
自分も顔を上げ、紫煙を勢いよく吹き上げる。
煙の行方をぼんやり追っていると、頭上の梢の中で小さく咳き込む声がした。
「ケホン、ケホン!」
続いてガサガサと葉っぱが揺れる。
何かが木々の上を移動して、ここから去って行ったらしい。
驚いて腰を浮かす横で、連れが大きく息を吐き、緊張を緩めるのがわかった。
そして言うには、
「いや、ふと上を見るとな、誰かと目があったんだ。
葉の向こう側、暗闇の中に二つの黄色い目玉だけが浮かんでた。
ビビって動けなくなっていたんだが、お前が煙草を吹き付けたら、咳き込んでどっか行っちまった。助かったよ」
「後にも先にも、喫煙を感謝されたのはあの時だけだな」
彼はそう言って頭を掻いていた。