一度よくわからん経験をした。
去年の春、仕事の関係で引っ越しをした。
去年の9月末頃に、生活にも慣れたしこの辺がどんなんなってるか知りたくなって、暗くなる前には家に帰ろうって決めて、昼過ぎから夕方にかけてクロスバイクで好き勝手探索してたんだ。
結構路地が入り組んでて、住宅街にも
「普段生活してて、そういやこっち行ったことなかったな」
みたいな道が結構あってさ。
穴場的な飯屋とか見つかったらいいなーなんてどんどん入ってみたんだ。
そしたら、なんていうのかな、人家はすごく立ち並んでるのに、生活感がないっていうか、人の気配がしないっていうか、そういう感覚と、あととにかく、風をびっくりするくらい感じないのよ。
なんだかすげえ無風だなあ、と思いながらずっと進んでたのね。
で、進行方向が90度カクっと曲がるような角になってて、先が見えなくなってた。
こっからよく覚えてるんだけど、歩行者とか車とか来たら危ないなーと思って、ミラーとか確認しようと思ったら無くてさ、
なんだ危ない道だなーと思って、ゆっくり角に差し掛かったのね。
そこからなんか、直感というか危険察知というか、
「あっ違うところ来ちゃった」
って感覚になってさ。
まずなんか色味が違うのよ。
なんだろうな…
CMYKをRGBにした感じっていうか、なんかやけに鮮やかに感じるっていうか。
あと、もう鳥肌立ったんだけど、家という家の入口に風車が刺してあって、無風だなってずっと感じてたのに、ぐるぐるぐるぐる回ってんのよ。
すげえなんかきさらぎ駅みたいな、読んだことのあるオカルトみたいだなあとか思ってたら、進行方向の家からおばちゃんが出てきて、すげえ不思議な顔をしてる。
あー、これはなんかやばいやつかなーと思って急いで引き返す事にしたんだけど、例の角を過ぎても色味が変わらないし、風車は無くならないし、さっきまで全然感じなかった人の気配を感じるのね。
ここから恐怖感に変わってきて、とりあえず現在位置の把握をしようと思って、一回止まって電柱の住所表示読もうとするんだけど読めない。
日本語なんだけど文字化けしてるような感じで、『お枚そケぎ』みたいになってる。
全然読めねえ。
マジかよと思いながら携帯出してみたら圏外。
慌てすぎて逆に変なところ醒めてたのよく覚えてる。
でも内心恐怖が全然消えなくて、あーほんとどうしよう、って焦ってたら、気づかないうちに
「あうにぷー?」
みたいな音だったと思うんだけど、そんな感じで声かけられた。
めちゃくちゃビビッて後ろ見たら、すごいしわくちゃなんだけど、紺色の浴衣みたいなん着た髭の似合うダンディなおじいさんがおってさ。
なんて聞かれたかわからなかったから答えられずにびくびくしてたんだけど、爺さん続けて何回か、多分最初の言葉と同じようなニュアンスで発音の違う声をかけてきた。
それもわかんなかったんだけど、したら爺さん合点のいったような顔になって、今度は
「どうした?」
って、あっ日本語だと思ってすごい安心して。とりあえず状況を説明したら、うんうん真剣な顔で聞いてくれて、私の家が近いからこっち来なさいと案内されて。
自転車押しながら爺さんの後に付いていくんだけど、風車がとにかく刺さってる。
回ってないのもあるんだけど、アルゼンチンの国旗みたいな顔があったり、もうなんか設定ガバガバだなって思ったのよく覚えてる。
家にたどり着いたら、そこで待ってなさいと玄関で待たされて、爺さん台所の方へ入って行って、木製の器みたいなのに水を入れてきて、突然俺の顔面にかけたのよ。
んでハッと気が付いたら家。
んな馬鹿なって感じ。
証拠もなんもないけど、ものすごい怖くなって隣町へまた引っ越し。
その路地は怖くってもう行けない。