その日夜、友人(ビビリ)は和歌山の山中を、一人で車で家に帰ってました。
そして、いくつかのカーブの後、突然ライトの光に浮かび上がって来たのは、百姓姿の婆さん!!
うっぎゃぁぁあああ!!!
しかし背中には農作業用のクワを背負ってるし、足もあり、ちゃんとヨタヨタ歩いとる。
夜中の十時になろうというのに、一人で道路脇を歩く婆さんに、友人は怖いというよりは、心配になり、あろうことか車をその婆さんの隣りによせ、声を掛けた。
「大丈夫すか?今から向こうの町まで帰るんすけど、送りましょうか?」
「・・・・・」
婆さんは無言のまま、手を振って、いらんいらん、とジェスチャー。
しかし故郷の祖母を思い出した友人は、なにか感情が湧いたらしく、婆さんの行き先が山向こうの町であることを確認すると、ついでだから、と婆さんを説得して隣りに乗せ、山道をすいすいと進んでいった。
山道も終わりにさしかかり、その内に町が見えてきた。
「もうすぐ着きますよ~」
と、隣りに婆さんに目をやった瞬間、ひぃ! と友人は声をあげそうになった。
足が無かった。
さっきはあったのに。歩いてたのに。やばい、やばい。
友人はスピードを上げ、町に急いだ。
その時、婆さんがちらっとこちらを見た気がした。
友人の背中が震え上がった。
「やべ~。なんでこんなのが乗ってんだ? と、とりつかれてしまうのかっ?」
やがて町の明かりが近づき、友人は町の入り口の手前に、車を止めた。
とてもじゃないが、家はどこですか?近くまで車で送ります、などとは言えなかった。
「つつつ着きました!!」
「・・・・」
婆さんはドアを開けると、正座していた足を降ろし、丁寧に礼を言うとひょこひょこ歩いて帰って行きました。