これは小学生の頃の話です。
私ともう二人の友達で、別の友達の家へ遊びに行きました。
北国の冬場は日の暮れが早く、4時過ぎになるとすでに薄暗くなっていました。
「もう暗くなるから帰りや。」
友達のおばあさんに言われて、私たちは帰路につきました。
私たち3人は家も近所だったのでよく一緒に放課後遊んでおり、みんな一緒に帰れるから怖いということもないし、親の方も安心だったと思います。
3人でいつものようにワイワイおしゃべりをしながら歩いていました。
家までの道にはゆるい坂道が長く伸びているのですが、そこに差し掛かった時でした。
坂の下から髪の長い女の人が歩いてくるのが見えました。
その人は白い着物のような服を着ており、髪もかなり乱れていて、今考えるといかにもこの世のものではないという風貌だったのですが、薄暗かったのでよく見えずその時はただ見慣れない人が歩いているというふうにしか思いませんでした。
上り坂だからかその人はとてもゆっくりと歩いていて、私たちとすれ違うまでにしばらく時間がかかりましたが、すれ違う瞬間に、何かぼそっと言ったように聞こえました。
私たちは特に何も考えずに坂道を降りて行くと、後ろから突然木の棒が飛んできたのです。
木の棒は私たちを超えて前方に落ちました。
反射的に振り返るとそこには誰もいませんでした。
たった今すれちがったはずのあの女性が、すっかり影も形もなく消えていたのです。
私はちょっとぎょっとしたものの、すぐそばに脇道があったので
「ああ、あそこの道に曲がって行ったんだな」
と思いました。
ところが、その後何かがおかしいことに気がつきました。
私とA子はさっきと同じようにぺちゃくちゃおしゃべりを始めたのですが、私たち3人の真ん中を歩いていたB子の様子がおかしいのです。
普通に歩いてはいるものの、私たちが何か言ってもまったく何もしゃべりません。
「B子、どうしたの?大丈夫?」
と聞いても、何も言わず怒ったような顔でずっと前方を見つめて歩き続けるばかり。
私とA子は何が起きているのかまったくわかりませんでした。
B子はものごとをはっきり言うタイプの子なので、黙って何も言わずに怒っているのは彼女らしくないと思ったのです。
B子が何も言わないので、私とA子もなんとなく気まずくなり、3人とも無言のままそのあと10分ほど歩き続け、私の家の前でバイバイしました。
B子とA子はそこから3分ほど歩いたところに住んでいるので、また歩き出しました。
次の日学校へ行くと、A子がいたので
「昨日B子おかしかったよね。何怒ってたんだろうね。あのあとなんか言ってた?」
と聞いてみました。
するとB子はやはり何も言わないまま、自分の家に入っていったそうです。
私とA子が話していると、B子が登校してきました。
しかし何事もなかったように、まったく普段通り明るく話しかけてくるのです。
「B子、どうしたん?昨日。」
と聞くと、きょとんとする彼女。
「昨日、何にもしゃべらんようになって、なんか怒ってたん?」
しかし聞いてみても、なんと彼女はまったく何も覚えていないと言うのです。
どうやら、昨日あの女性を見たところからの記憶が、B子からすっぽり抜けているらしいのです。
それを聞いてようやく私とA子は、あの女性がこの世のものではないかもしれないと思い、あらためて背筋が凍りました。
家に帰ると母が
「今日B子ちゃんどうだった?」
と聞いてきました。
普通だったと答えると、母はB子の母から聞いた恐ろしい話をしてくれました。
B子の母はもともと霊媒体質で、よく見たり聞いたりするという話を聞いていました。
昨日帰ってきたB子を見るなり、何かが憑いていると悟ったB母は外で塩をB子にかけながら頬を叩き、憑き物を払ったんだそうです。
B子は気絶してそのまま朝まで眠ったということでした。
本物の霊媒体質の人は大変だなあという気分でしたが、そういうのも遺伝するのかと人間の神秘に思いを馳せる、そんな事件でした。