俺んちの家系は、男が霊感ゼロに対して“女は霊感が強くなる傾向がある”らしい。
実際、俺も霊感は全くない。
親父は婿養子だから当然ない。
妹の霊感の有無は知らない。
まだ子供の頃、小便がしたくて起きた俺は、用を済まして時計を見ると夜中の2時だった。
そんな時間に起きていたことのない俺は、なんだか急にテンションが上がり、深夜の家を探検することにした。
探検を始めた直後、母ちゃんのうなされる声が聞こえて、暗がりから襖を少し開けて覗いてみた。
すると、ベッドでうなされている母ちゃんのお腹が妊婦みたいに膨れ上がり、布団からはニョキと足がはみ出していて、どう見ても2メートルくらいの大きさになっていた。
俺はその時に初めて、人間は本気で恐怖すると声なんて出ないんだな、と思った。
四つん這いで自分の部屋に戻った俺は、布団に包まって泣きながら震えていた。
頭の中はパニックで、これからどうしよう、父ちゃんに打ち明けるべきか、どう言ったら信じてもらえるか・・・。
母ちゃんは化け物だった。
母ちゃんとの思い出が頭の中でグルグルと回り、声が出ないように布団を噛んで嗚咽を隠した。
やがて俺は寝てしまったらしく、朝になって母ちゃんが起こしに来たのだが、目が明らかに変わっていた。
爬虫類のような、どこか他人を見るような目で俺を見るようになった。
話しかけても一度目は無視をする。
話している時に表情が全く変わらない。
その時の母ちゃんの状態は父ちゃんに対してもそんな感じなのに、父ちゃんは全く気にした様子もなく会社に行ってしまった。
困り果てた俺は、霊感が強くて自分が体験した心霊体験をよく俺に聞かせてくれた婆ちゃんに相談することにした。
俺は泣きじゃくりながら、母ちゃんが化け物だったこと、俺はそのうち捨てられることを話すと、
「母ちゃんにはキツネが取り憑いておる。わしがなんとかする」
と言って俺を抱きしめてくれた。
婆ちゃんのニオイは嫌いだが、我慢した。
その日の夜中、俺は婆ちゃんに起こされて、母ちゃんの寝室に連れて行かれた。
襖を少し開けて覗くと、また母ちゃんがうなされていて、だんだんと布団のお腹の部分が膨れていった。
俺は泣きそうな顔で婆ちゃんに助けを求めると、婆ちゃんはガラッと勢いよく襖を開けて、持っていた竹ぼうきで母ちゃんの腹を叩いた。
すると、一瞬蒼白く光った母ちゃんのお腹は元のサイズに戻った。
「これでもう大丈夫。おまえが見つけてくれたおかげで母ちゃんは助かった」
そう言った婆ちゃんは、泣きじゃくる俺を優しくあやしてくれた。