じゃ俺の友人の話を。
ある日友人が「泊めてくれ」と言ってきた。
一人暮らしなので奴を泊めてやることは時々あったが、この時は明らかに様子がおかしかった。
妙にびくついてるし、顔色もえらく悪い。
風呂上り、ビール片手に話を聞いてみた。
奴曰く、家にいると『目』に見られるのだという。
目って何じゃい?と聞き返す俺に、奴は説明してくれた。
とにかく『目』としか言いようがない。
それはありとあらゆる隙間から自分を見てくる。
本棚の隙間、
カーテンの合わせ目、
エアコンの吹き出し口、
開いたカバンの中、
挙句の果てには布団の奥から、など。
人の顔というよりも、暗がりの中に『目』だけがあってまばたきもせずにただじっと、見つめてくる。
どう聞いても幻覚症状です、ありがとうございました。
…こりゃヤバい、と思った。
確かにしばらく前、隣の住人がうるせーと愚痴ってたような気はしたが…そこまで参ってたのか。
「疲れてんだ神経科行ってこいゴルァ!」
と友人を励ましつつ、その日は寝た。
奴もなかなか寝付けなかったようだったけど、最終的には良く眠れたみたいだ。
その後、1週間かそこら奴は外泊を続けたらしい。
流石に俺んちに連泊するのははばかられたのか、他の友達の所とか漫喫とかで過ごしていたようだ。
しかし更にその後、奴は入院することになった。
いわゆる精神系の病院に。
見舞いに行ったが面会も出来ないような状態らしかった。
奴のオカンが泣きながら、それでも「来てくれてありがとう」とお礼を言ってきた。
心が痛むけど奴のことも気になったので、オカンに詳しいことを聞く。
そうなったきっかけこそ判らないが、今息子はノイローゼ状態にある。
手で固く両目を覆って、何も見ようとしない。
一度指の隙間からこっちを見たとき、搾り出すような叫びをあげて
「見てる!!見てる!!暗くないのにいるよお!!」
と泣き出してしまった…
んでこういう話にありがちな陳腐なオチと言われそうだけど、その少し後になって、奴のアパートの隣室から死体が見つかったそうだ。
聞いたところによると、心筋梗塞の発作を起こして突然死。
一人暮らしのおっさんで身よりもないし、また冬だったので発見が遅くなったらしかった。
死の直前の苦痛は相当のものだったようで、部屋のものは激しく散乱、
押入れのふすまなんかもバタバタ倒れたりしてたらしい。
苦しんだ末か、押入れの奥、隣室側の壁に顔面からのめりこむような変な姿勢で倒れていたということだった。
かっと、両目を見開いたままで。