子供の頃、5才くらいまで八王子に住んでいた事がある。
でもまだ幼かったため当時の記憶はほとんどない。
だが「のりこちゃん」の事だけは鮮明に覚えている。
私と同じくらいの年齢。
たしか近所のお寺の娘さんで大きな瞳と栗色の長い髪、 私の初恋の相手だ。
先日、仕事の都合で八王子に行く機会があり、昼で用事を済ました私は、懐かしい町をぶらり訪れてみようと思った。
変わらない町並み。20数年前の忘れていた記憶が少しづつ断片的に甦ってくる。
私の住んでいたアパートの場所は残念ながら取り壊されてしまったのか駐車場に変わっていたが、のりこちゃんのお寺は昔と変わらず今もそこにあった!
『あ~、そういや当時のりこちゃんと、不謹慎にもお寺の境内でかくれんぼをしたりしてよく遊んだもんだ…。』
なんてノスタルジーに浸っていると、境内を掃除している住職を発見!
見覚えのある顔。間違いなくのりこちゃんの親父さんだ!
嬉しくなって思わず住職に声をかけた。
最初は
『このオッサン誰よ?』
って感じの住職だったが、名を名乗ると私の事をよく覚えているというではないか!
私は当時の思い出話などを住職と、楽しくしばらく話したが、だんだん話が噛み合わなくなってきた。
住職によれば、私は「一人で」お寺で遊んでいた。 だから私をよく覚えていたらしい。
そもそも「のりこちゃん」などという子は娘ではないし、(この住職には息子しかいないし、私と大分年令が離れている)近所にもそんな子は知らないと言う。
じゃあ私が遊んでいた「のりこちゃん」は誰!?
普通なら子供の頃の曖昧な記憶違いかな?って事で終わるんだけど、ふと視線を反らすと住職の足元に座り目を細めて笑う小さな女の子が。
それは20数年前と変わらぬ笑顔のまま「のりこちゃん」がそこにいた!
突然寒くなり全身に鳥肌が立った。
そして、のりこちゃんがこの世の者ではない事に気付いた。
住職には見えない。
私は恐怖のためか声がでない。
目が合うとのりこちゃんは、立ち上がりまるで狐の様にありえないくらい大きく口を開けた。
なぜか口の中は真っ黒。
そしてゆっくりと口パクで
「は な し た ら 殺 す」
私はそのあと、ふっと体が軽くなり、住職に別れを告げ、急いで帰った。
そのあとは、そのお寺にも行ってないし、八王子にも行っていない。